ドクターカーの目的は現場で重症患者への安定化処置を行うこと、そして現場で診断し病院到着後の根本治療までの時間短縮をすることです。前述のような不整脈や慢性腎不全のケース以外にも、搬送先の病院で造影CTを行う場合には、事前にエポックでクレアチニンの測定結果を確認しておくことが重要です。病院に到着してから検査を行う場合と比べて、はるかに早く治療にとりかかることができると考えます。素早く適切な判断をするために必要な情報を把握することは、救急現場のアウトカムの向上にとって大事な要素だと思います。
血液ガス装置エポックに関しては機器本体と消耗品はドクターカーの中にあらかじめ準備されており、充電も車内のコンセントから行います。院内で血液ガス装置を管理している検査技師に確認すると、通常血液ガス装置は定期的なメンテナンスが必要になるようです。その点エポックは充電さえできていれば使用したい時にすぐに使用可能です。測定カードは使い切りのため、定期的な較正も必要なくメンテナンスフリーです。また、測定カードは15℃~ 30℃で保管可能と聞いていますので、使いたい時にすぐに使用できます。以上の特徴から、救急現場で装置を使用する医師の立場から見ても、特別な準備もなく、時間をかけて管理する必要がないので安心して使用できます。
横浜市のように病院へのアクセスが容易な地域、いわゆる都市型と、病院までの距離もあり、搬送時間も長くかかる地域、いわゆる地方型とでは、ドクターカーの役割は異なると思います。
地方型では、遠いところから搬送される患者さんに対して早期の医療介入をすることがドクターカーの大きな目標ですが、都市においてもドクターカーは注目されています。横浜市では15分か20分あれば病院に到着するため、その限られた時間の中で都市型は地方型とは違う動きをしなければいけません。短い時間の中でも必要な判断と治療を確実に行い、いち早く患者さんを最寄りの病院に搬送します。地域のネットワークにより搬送先を選び、受け入れてもらうことが都市型のポイントと考えます。地域のネットワークで搬送後の治療を行う場合、定量的なデータが医療従事者間の共通の理解に重要です。当然、血液ガスの測定データもそのひとつです。
横浜市立市民病院では、より良い救急医療を提供するため、我々救急医師だけではなく、院内の関連部署と密に連携を取りながら診療を行っています。今回、お話した血液ガス分析装置に関しては、管理をしっかり行ってくれている臨床検査技師を信頼しています。専門家としての意見を尊重することで、我々医師はベストな装備の中で患者さんへの対応ができています。
今後の課題はエポックで測定したデータのオンライン化です。ドクターカーで使用されているエポックについては院内システムとはオフラインで使用しています。院内で使用されている据置型装置はすべて集中管理システムを介して院内システムと連携されており、検査技師の皆さんが一生懸命に管理してくれています。機器を選定する時もデータの連携機能がポイントになりましたが、将来的に院内システムと連携する場合にも、エポックはWi-Fi、Bluetoothのリアルタイムなワイヤレス通信、そしてデータマネジメントシステムでも対応が可能になると聞いています。小型のハンドヘルド装置とは思えないほど様々な通信形式に対応していることが分かりましたので、今後の活用にも期待したいです。
最後に、我々が公的医療機関であることが、地域のネットワークに支えられた都市型ドクターカーの実現につながっていると思います。今後は地域のネットワークをさらに広げながら、横浜市立市民病院を都市型ドクターカーモデルの種として、みんなの気持ちをひとつにして大事に育てていきたいです。