社会福祉法人仁生社江戸川病院
所在地:東京都江戸川区東小岩2‐24‐18
病床数:474床
お話をおうかがいした先生:整形外科 脊椎センター長 徳永茂行 先生
1932年に結核療養所として開院した江戸川病院。その後は、時代とともに変化する疾病構造や地域患者さんの医療ニーズに合わせ、常に進化を続けてきました。現在では、最先端の医療機器や先進的な治療方法を積極的に導入し、身近なかかりつけ医としての役割も果たしながら、多岐にわたるハイレベルな医療の提供を実現しています。整形外科においてもまた、大学病院にも劣らない安全で質の高い医療を地域に提供しています。
今回は、ハイブリッド手術室での、多軸型X線透視撮影装置ARTIS phenoと日本メドトロニック社製ナビゲーションシステムStealthStation S8の連携によって実現された、脊椎手術の安全性や確実性の向上について、整形外科· 脊椎センター長の徳永茂行先生にお話をうかがいました。
ARTIS pheno を設置したハイブリッド手術室
外傷、関節系、脊椎系、腫瘍、感染など整形外科全般の疾患に対し、慶應義塾大学整形外科や東邦大学整形外科とも連携しながら、幅広く対応しています。当院では、柱となる外傷· 人工関節·脊椎の手術件数はほぼ同等で、整形外科全体の年間手術件数は約1600件(2019年度)です。
頚髄症や胸髄症、腰部脊柱管狭窄症、側弯症、脊髄腫瘍、脊髄感染症などの脊椎疾患に対し、脊椎内視鏡や顕微鏡、ナビゲーションなどを使用し、脊椎前方・後方手術を低侵襲手術を含め多岐にわたる術式より患者さんに最適な術式を選択し行っています。当院には腫瘍血液内科やがん免疫治療センター、腎移植· 透析統括センターなどがあることから担がん患者など併存疾患を複数有する患者さんが多い傾向にあり、そのため単に手術を行うというだけではなく、良好な術後成績を獲得するために、個々の患者さんの状態に沿った手術計画を行っているところが、特徴といえるでしょう。脊椎手術は常勤医師3 名、外勤医師2 名体制で対応しています。
整形外科では、脊椎疾患をメインに使用しています。ARTIS pheno は画像解像度が高く、変形の強い症例や頸椎固定術など高精度を求められる手術で、安全で正確な手術の実現に力を発揮してくれています。毎週火・水・木曜日に脊椎手術で使用していますが、画質面や安全面での利点から、予定手術の7 割以上をハイブリッド手術室で行っています。
ARTIS pheno からナビゲーションシステムへの画像データの転送は、スピーディかつスムーズです。他メーカーのナビゲーションシステムとの組み合わせでも、支障なくナビゲーション下で手術に移行できます。脊椎手術では、椎体内の骨髄のみならず頸椎固定術などで、椎骨動脈の位置把握を特に注意しますが、ナビゲーションシステムを使用することで、かなりのリスク軽減が図れると考えています。ARTIS pheno の術中CTライクイメージ「syngo DynaCT」の画像データは、この3D構築に十分耐えうる精度が得られている印象です。
もう一つの大きなメリットは術者・スタッフのX 線被ばくについてです。被ばくによる水晶体、甲状腺、皮膚や生殖器への影響が問題とされていますが、脊椎固定術では透視の使用頻度が高く、多少なりとも被ばくは避けられません。ナビゲーションシステムの使用で術中のX 線被ばくはなくなり、術中の確認作業も、ARTISpheno の透視やsyngo DynaCT 撮影は操作室から遠隔操作で行えるため、ほぼ被ばくすることがなくなりました。これにより、術者・スタッフのX 線被ばくが大きく低減できるとともに、重いプロテクター装着からの解放や、妊娠の可能性のある女性の手術参加も可能となりました。
画像解像度の高さは、やはり特筆すべき利点でしょう。また、ロボティックアームならではの動きで、手術台に対してかなり外側からアームが来るので、自由度が高く、医療スタッフや手術機材の邪魔にならずに術野や視野を確保できます。それによって清潔域のキープも容易です。アームのフリースペースが広いため、Cアームを回転させる際に手術台や患者さん、ナビゲーションシステムのアンテナなどに干渉しにくいのも良いところです。
操作性については、技師さんのラーニングカーブが長くなりがちですね。動きが少し複雑なので、今のところ、慣れている技師さんとそうでない技師さんとの差があるようです。下回りのコード類の処置をどうするかなど、準備段階を整えることで、チームとしてスムーズにスピーディに操作できるようになれば、手術時間もかなり短縮できると思います。現在、ハイブリッド手術室は整形外科の脊椎分野と血管外科が主に使用していますが、ARTIS pheno の透視の性能も高く評価されていて、他科からも透視を使いたいという要望が寄せられています。
X線透視· 撮影装置本体のつくりがかなり大きいので、今後はコンパクト化を期待したいですね。術中のsyngo DynaCT の撮影画像に関しては、本当に綺麗に撮れるのでまったく不満はありません。ただし、ナビゲーションシステムのアンテナを入れる範囲が必要なので、できればCアームの回転する直径と撮像範囲がもう少し広いと良いかなと思います。
Cアームと手術台はお互いの位置関係を認識しあっているので、近づくと動きがゆっくりになって、干渉を防止しますよね。その一方で、足元にある他の機材などには結構ぶつかることがある。今後は、Cアームが動く軌道上に手術機材などがあった場合にも、それらを感知して、干渉を防止するための安全機構が働くようなシステムが開発されることを、期待したいと思います。
Siemens Healthineersさんの企業イメージとしては、クリーンであることと、ほど良い距離感が良いなと感じているのですが、ARTIS pheno のように複雑な動きをする装置の場合は、医療スタッフも慣れるまでに時間がかかりますので、より一層の密なサポート体制を図っていただければありがたいです。