Simon Tang1,2,3; Eng-Siew Koh1,2,3; Robba Rai1,2,3; James Otton4; Mark Lee2,3; David Tran4;
Lois Holloway1,2,3,5; Liza Thomas3,5; Benjamin Schmitt6; Gary Liney1,2,3
1. Ingham Institute of Applied Medical Research, Liverpool, NSW, Australia
2. Cancer Therapy Centre, Liverpool Hospital, NSW, Australia
3. University of New South Wales, NSW, Australia
4. Department of Cardiology, Liverpool Hospital, NSW, Australia
5. University of Sydney, NSW, Australia
6. Siemens Healthineers, Sydney, Australia
はじめに
食道癌における症候性心毒性の粗発生率は10.8%であると言われている〔1〕。心嚢液貯留、不整脈、虚血および心筋症などの臨床所見を含む心臓病変は、一般に胸部放射線療法の実施後4~24カ月の間に発生する〔2, 3〕。平均駆出率の低下〔4〕、血流障害、心筋虚血〔5〕を含む無症候性病変も治療後1~3カ月という短期間に発生することが知られている。Hatakenakaら〔6〕は心臓MRIを用い、化学放射線療法の実施後に心拍数、1回拍出量、左室(LV)拡張末期容積係数の変化とともに限局性の壁運動異常が発生することを示した。施設内のin-vivoでの横断的および縦断的な再現性を定量評価した研究では、T1測定値で3.9%、T2測定値で15.2%の変動が認められた〔7〕。
本稿では、食道癌に対する化学放射線療法を受け、心臓マッピング(MyoMaps)を用いて治療前、治療後6週時点および12カ月時点の心筋組織特性を縦断的に評価した症例を紹介する。
症例
67歳男性、原因不明の嚥下障害および体重減少で検査を受け、食道下部のStage IB T2N0M0扁平上皮癌と診断された。高コレステロール血症および喫煙歴の心血管危険因子を有するが、その他は健康であった。50Gy/25回照射の3D原体照射とカルボプラチン/パクリタキセル投与による化学放射線療法を実施した。治療中または治療後に心臓症状は発生しなかった。
本稿に示した概念や情報は研究に基づくものであり製品化されたものではない。
MRI撮像
化学放射線療法による治療前と治療後6週および12カ月の時点で1回ずつ、合計3回の心臓MRIスキャンを実施した。3テスラでModified Look Locker Inversion(MOLLI)シーケンス1を用い、ガドリニウム造影前および造影後15分時点の心筋短軸T1マップ(MyoMaps、Siemens Healthcare、ドイツ・エアランゲン)およびT2マップ(MyoMaps)を生成した。MRIマッピングソフトウェア(cvi42 v4.5、Circle Software)を用いてLVのT1緩和時間、造影後T1緩和時間、T2緩和時間を算出した。心筋分配係数(myocardial portioning coefficient;λ)からヘマトクリットで調整した細胞外容積(ECV)を算出した。米国心臓協会(AHA)の17セグメントモデルを用いて値を記録した〔8〕。図1にLV輪郭を描画した造影前(native)T1マップを示す。表1に各種MRIパラメータについての関連する定義・意義の概略を示す。
1 本製品は開発中の段階でまだ市販されていない(WIP)。今後の販売は未定。
放射線療法の線量計算
AHAモデルの各LVセグメントに対する照射線量は、Oncentra Brach Treatment Planning v4.5.2(Elekta AB、スウェーデン・ストックホルム)でプランニングCT再構成画像に心筋輪郭を描画した後、Mim v6.77(Mim Software、米・オハイオ州ビーチウッド)にインポートして線量を読み取った。読み取った値は心臓の平均線量、LV平均線量、各セグメントの平均線量で、心臓の平均線量は放射線被ばくが誘発する心毒性に関連することが知られている〔9〕。
結果
心臓の平均線量は28.82Gy、LV平均線量は14.16Gyであった。各LVセグメントの平均線量は不均一で、セグメント3・4が30Gy以上、セグメント2・5が20Gy以上、セグメント6・10・11が10Gy以上であった。図2に照射線量をブルズアイ表示で示す。
図3~図5にT1値、T2値、ECV値の変化を示す。図6および図7にMyoMaps上の変化を示す。化学放射線療法後に造影前T1値が延長しているように見え、治療後12カ月時点、高線量のセグメント3・4・5で最も顕著である。治療後12カ月時点のT2値延長も見られるが、これはLV全体に及んでいる。化学放射線療法後6週時点でECV百分率の一過性増大が認められた。
結論
癌治療後の心筋定量評価におけるMyoMapsの有用性が示され、本症例の経験から実現可能であることが実証された。この1症例による研究において、治療後12カ月時点でT1緩和時間およびT2緩和時間の延長が認められ、それに先行して治療後短期間でのECV百分率増大が認められた。これらの結果に関しては、T1/T2測定に固有の変動性を考慮する必要がある。本症例で報告された結果に有意性があるかどうかを判断するには、さらなる研究が必要であろう。
とはいえ、心臓MRIマッピングは放射線療法後の急性~亜急性の心筋変化に関して全く新しい情報をもたらす可能性がある。