Vincenza Granata1; Roberta Fusco1; Mario Sansone2; Roberto Grassi3; Francesca Maio1; Raffaele Palaia4; Fabiana Tatangelo5; Gerardo Botti5; Robert Grimm7; Steven Curley6; Francesco Izzo4; Antonella Petrillo1
1 Radiology Unit, Istituto Nazionale Tumori IRCCS “Fondazione G. Pascale”, Naples, Italy
2 Department of Information Technology and Electrical Engineering (DIETI), Naples, Italy
3 Radiology Unit, Second University of Naples, Italy
4 Hepathobiliar Surgical Oncology Unit, Istituto Nazionale Tumori IRCCS “Fondazione G. Pascale”, Naples, Italy
5 Diagnostic Pathology Unit, Istituto Nazionale Tumori IRCCS “Fondazione G. Pascale”, Naples, Italy
6 Department of Surgery, Baylor College of Medicine, Houston, TX, USA
7 Siemens Healthineers, Erlangen, Germany
要旨
目的
ダイナミック造影MRI(Dynamic Contrast Enhanced : DCE-MRI)から得た灌流パラメータ、拡散尖度イメージング(Diffusion Kurtosis Imaging;DKI)、ボクセル内インコヒーレント運動(IntraVoxel Incoherent Motion;IVIM)モデルに基づく拡散強調イメージング(DWI)から得たパラメータの、膵腫瘍と正常膵実質の鑑別における診断能力を評価すること。
方法
病理組織学的検査で膵腫瘍と診断された患者24例(年齢中央値71歳)および膵病変のない24例(年齢中央値56歳)を解析した。ボクセル毎にDCE-MRI、IVIM、DKIの各パラメータを算出した。ノンパラメトリックな検定法および受信者動作特性(ROC)曲線を用いて正診率を評価した。
結果
Kruskal-Wallis検定に基づき、DKIの平均拡散率(meandiffusivity;MD)、IVIMの全体に占める灌流の割合(perfusion fraction;fp)、IVIMの拡散係数(diffusion coefficient;Dt)の中央値に統計学的に有意な群間差が認められた。正常膵実質と膵腫瘍の鑑別におけるMDの正診率は78%であった。
結論
IVIMおよびDKIから得たパラメータとDCE-MRIの半定量的パラメータの一部は、正常膵実質と膵腫瘍の鑑別に有用な可能性がある。
はじめに
膵腺管癌(PDAC)は米国において膵癌全体の90%を占め、癌関連死の第4位の死因になっている。大部分の癌で生存率が着実に向上しているのに対して、膵癌の分野は進歩が遅く、現在の5年相対生存率は8%にすぎない。過半数が遠隔転移病期で診断されることが生存率の低さの一因で、この病期における5年生存率は3%である〔1〕。
多列検出器CT(MDCT)やMRIなどの画像技術の著しい進歩にもかかわらず、充実性膵病変を正しく診断することは依然として難しい。これは良性病変と画像上の特徴が一部共通していることと関係がある〔2〕。しかし、膵病変は腫瘍のタイプやグレードによって治療方針および予後が大きく異なるので、正しい検出および性状評価が必須である〔3〕。正しい腫瘍病期分類には信頼できる正確な画像が不可欠である。実際に、膵腺管癌は早期にリンパ管に浸潤し、膵周囲組織の潜行性の浸潤として限局性の浸潤性病変が発生する可能性がある。この限局性の浸潤によって腫瘍の真の範囲と病期が過小評価される可能性があり、術前に確認されなければ外科的切除の中断の原因にもなりうる〔4〕。患者にとって頼みの綱は膵腺管癌の早期検出である。したがって、腫瘍の視認性が高い非侵襲的な画像法は臨床転帰を改善する上で極めて重要であろう〔5, 6〕。悪性と良性の膵病変を鑑別するための臓器特異的な血管分布の解析方法は未解決の問題として残されている。ダイナミック造影MRI(DCE-MRI)を用いた造影パターンおよび灌流パラメータの定量解析は、膵病変を客観的に評価することができ有用であることが示されている〔7, 8〕。近年、膵病変の評価において、これまでにない体幹部MRIの使用法が見られ、拡散強調イメージング(DWI)が悪性腫瘍の検出ツールとして大いに注目を集めている〔9-12〕。良性の炎症性病変や嚢胞性病変に比べて悪性の充実性腫瘍では拡散が制限されることから、DWIは限局性膵病変に関する追加情報をもたらしうる。これは見かけの拡散係数(ADC)の低下によって示すことができる〔13-16〕。しかし、拡散強調信号およびADC値は分子の拡散だけでなく微小循環または血液灌流の影響を受ける可能性もあり、そのためADC値に灌流の影響が混入する可能性がある。これは膵病変の性状評価におけるADCの信頼性を低下させる〔17,18〕。微小循環または灌流の影響は、十分なb値サンプリング数とボクセル内インコヒーレント運動(IVIM)モデルによる二重指数関数(biexponential)のカーブフィット分析を用いることで、真の組織の拡散と識別することができる〔17-21〕。
膵臓のIVIMに関するこれまでの研究で、PDACにおけるADC低下は灌流の割合(perfusion fraction : fp)の違いが原因になっている可能性があり、PDACではfpが低下し〔20〕、腫瘤形成型膵炎とPDACの鑑別においてfpはADCより優れたDWI由来パラメータであることが示されている〔21〕。しかし現在までのところ、悪性膵腫瘍と良性病変の鑑別におけるIVIMの有用性を検討した研究は少ない。また、従来のDWIモデルは、1ボクセル内の水の拡散は単一成分であり、水分子が自由に拡散するガウス分布型の挙動を示すという仮定に基づいている〔18, 19〕。しかし、複数の微小構造が存在(すなわち、1つのボクセル内に細胞小器官と細胞膜という2種類の組織タイプまたは成分が存在)するため、生体組織内の水分子のランダムな熱運動すなわち拡散は非ガウス型の挙動を呈する〔22〕。2005年に、Jensenらが拡散尖度イメージング(DKI)と呼ばれる非ガウス型の拡散モデルを提案した〔22〕。このモデルには、組織における拡散がガウス型モデルからどれだけ逸脱しているかを示す尖度係数(K)と、非ガウス型バイアス補正を行った拡散係数(D)が含まれる。DKIは腫瘍の検出および病期分類における成績が従来のADCに比べて優れていた〔23-29〕。
本研究の目的は、DCE-MRIから得た灌流パラメータ、DKIおよびIVIMから得たDWIパラメータの膵腫瘍と正常膵実質の鑑別における診断能力を評価することである。
対象および方法
研究対象集団
当施設Istituto Nazionale Tumori(国立腫瘍研究所)の施設内倫理委員会がこの後ろ向き研究を承認し、各患者から必要なインフォームドコンセントを得た。まず当施設の外科データベースを2011年1月から2017年10月まで検索し、膵癌の外科的切除を受けた患者42例を選択した。組み入れ基準は次の通り。
A.病理学的検査で膵癌と確認された患者
B.DCE-MRIおよびDWIの両方を受けた患者
C.画像診断から病理学的診断までの間隔が1カ月未満の患者
D.画像所見と病理所見の照合のため、診断に耐える画質の切除標本写真を得ていること。除外基準は次の通り
1.画像診断と病理学的確定診断が一致しない
2.画質不良のため病理所見と画像所見の対比に制限がある
3.DCE-MRIおよびDWIが得られない
これらの基準に基づき、患者24例(男性14例、女性10例、年齢中央値71歳、年齢範囲53~85歳)を本研究に組み入れた。また、範囲バイアス低減のためにDCE-MRIおよびDWI上腹部検査を受けた膵病変のない対照群を研究期間中の当施設外科データベースで検索し、これらの基準に合致した24例(男性13例、女性11例、年齢中央値56歳、年齢範囲33~78歳)を登録した。
MRプロトコル
MRプロトコルはDCE-MRIおよびDWIシーケンスを含む形態学的撮像および機能的撮像で構成した。撮像はフェーズドアレイボディコイルを搭載した1.5TスキャナMAGNETOM Symphony(Siemens Healthcare、ドイツ・エアランゲン)で行った。患者はヘッドファーストの仰臥位とした。形態学的な造影前アキシャルT2強調(T2w)の2D half-Fourier acquisition single-shot turbo spin-echo(HASTE)撮像を脂肪抑制あり・なしで行い、撮像パラメータはTR/TE=1500/90ms、スライス厚=5mm、スライス間ギャップ=0mm、フリップ角=180°、マトリクス=320×320、撮像領域(FOV)=380×380mm²とした。
形態学的な造影前アキシャルT1強調(T1w)のFast Low AngleSHot(FLASH)2D in-phase画像およびout-of-phase画像をTR/TE=160/4.87ms、スライス厚=5mm、スライス間ギャップ=0mm、フリップ角=70°、マトリクス=192×256、FOV=285×380mm²で撮像した。形態学的な造影前アキシャルT1w脂肪抑制FLASH 2D outof-phase画像をTR/TE=178/2.3ms、スライス厚=3mm、スライス間ギャップ=0mm、フリップ角=80°、マトリクス=416×512、FOV=325×400mm²で撮像した。
形態学的な造影後アキシャルおよびコロナル脂肪抑制T1wのVolumetric Interpolated Breath-hold Examination(VIBE)画像をTR/TE=4.89/2.38ms、スライス厚=3mm、スライス間ギャップ=0mm、フリップ角=10°、マトリクス=320×260、FOV=325×400mm²で撮像した。自由呼吸下シングルショット・エコープラナーDWIシーケンスを用いたアキシャル撮像を行い、撮像パラメータはTR/TE=7500/91ms、スライス厚=3mm、フリップ角=90°、マトリクス=192×192、FOV=40×340mm²、3方向の拡散傾斜磁場でb値は0、50、100、150、400、800s/mm²とした。
DCE-MRIに関しては、造影前に1シーケンス、常磁性物質ガドリニウムをベースとする陽性造影剤(Gadobutrol Gd-DTPA、Bayer Pharma AG、ドイツ・ベルリン)2mL/kgの静脈内注入後に120シーケンス(遅延なし)の撮像を行った。造影剤の注入はSpectris Solaris® EP MRポンプ(MEDRAD Inc.、米・ペンシルベニア州インディアノーラ)を用いて注入速度を2mL/sとし、注入後に生理食塩液10mLによるフラッシュを同速度で行った。時間分解能を高めるため、Time-resolved angiography WIth Stochastic Trajectories(TWIST)を用いてDCE-MRI T1w 3Dアキシャル画像を撮像した。撮像パラメータはTR/TE=3.01/1.09ms、フリップ角=25°、マトリクス=256×256、スライス厚=2mm、ギャップ=0、FOV=300×300mm²、時間分解能=3秒、pA=0.20、pB=0.20とした。
MR画像解析
関心領域(ROI)は放射線科専門医2名の合意をもって手動で描画し、歪みアーチファクトを囲まないようにした。20年以上の臨床経験を有する放射線科医1名および8年の体幹部MRI読影経験を有する放射線科医1名が、造影後画像から造影前画像を減算することで仮想的に脂肪抑制を行ったDCE画像およびb値が最も高いDWI 画像にROIを描画した。膵癌患者については、腫瘍体積を得るために腫瘍の輪郭をスライス毎に描画した。膵癌ではない患者については、膵実質(頭部、頸部、体部、尾部)に4個のROIを描画して膵実質組織の中央値を得た。DCE-MRIおよびDWIのデータから得る因子に関しては、ピクセル毎の計算でROIの中央値を算出した。
DCE-MRIから得る因子
文献〔30〕で報告済みの方法を用い、ボクセル毎に次の8個のTime Intensity Curve( TIC)形状記述子を算出した:最大信号差(Maximum Signal Difference;MSD)、ピーク到達時間(Time To Peak;TTP)、流入の傾き(Wash In Slope;WIS)、流出の傾き(Wash Out Slope;WOS)、TICの信号軸とWISの交点(Wash In Intercept;WII)、同WOSの交点(Wash Out Intercept;WOI)、WOS/WIS比、WOI/WII比。
DCE-MRIパラメータはMATLAB R2007a(The Math Works Inc.、米・マサチューセッツ州ネーティック)で開発されたプロトタイプのソフトウェアを用いて算出した1。
1 本稿に示した情報はサードパーティー製品に関するものであり当該製造会社がその法的責任を負う。詳細は当該製造会社に問い合わせのこと。
DWIから得る因子
ボクセル毎に、DWIデータから単一指数関数(mono exponential)モデル、DKIモデル、IVIMモデルを用いて6個の因子を算出した〔17, 18, 31-39〕。DWI信号減衰の解析に最もよく用いられるのはmono exponentialモデルである〔17, 18〕。
ここで、Sbは拡散強調bでのMRI信号強度、S0は非拡散強調の信号強度、ADCは見かけの拡散係数である。血管の占める割合が大きいボクセルでは、MRIデータ減衰がmonoexponentialモデルから逸脱する可能性があり、特にIVIM効果により低b値では急速な減衰を示す〔17, 18, 33〕。このため、monoexponentialモデルに加えてbiexponentialモデルを用い、IVIM関連パラメータの擬似拡散率(DpまたはD*)、灌流の割合(fp)、組織拡散率(Dt)を算出した。
さらに、最終フィッティング画像を得るためにDKIを解析に組み入れた〔拡散係数の平均値(MD)および拡散尖度の平均値(MK)〕。以前の研究〔22〕と同様に2変数の線形最小二乗アルゴリズムを当てはめることにより、拡散尖度信号の減衰式(Equation 3)を用いてボクセル毎フィッティングによりMulti-b DWI画像を得た。
ここで、Dは補正後の拡散係数、Kは過剰拡散尖度係数(excess diffusion kurtosis coefficient)である。Kは分子運動が完全なガウス分布から逸脱している程度を表す。Kが0のとき、Equation 3は通常のmonoexponentialな式(Equation 1)になる。
DとADCの違いは、Dは非ガウス状態で用いるためにADCを補正したものである。従来のDWIパラメータ(ADC)、IVIMパラメータ(fp、Dt、Dp)、DKIパラメータ(MK、MD)は、測定した全てのb値によるmulti-b DWIデータからプロトタイプの後処理ソフトウェアBody Diffusion Toolbox2(Siemens Healthcare、ドイツ・エアランゲン)を用いて算出した。
統計学的解析
連続変数は中央値±標準偏差(SD)で表した。3群に分類したパラメータは全てノンパラメトリックなKruskal-Wallis 検定を用いて比較した。また、膵腫瘍と膵実質組織との鑑別能力を評価する目的で、受信者動作特性(ROC)曲線を用いて各パラメータ値を算出した。至適カットオフ値(maximal Youden index=感度+特異度-1に基づき算出)、感度、特異度、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)、正診率を算出した。P<0.05を統計学的に有意とみなした。統計学的解析はMATLAB R2007a(The MathWorks Inc.、米・マサチューセッツ州ネーティック)のStatistics Toolboxを用いて行った1。
1 本稿に示した情報はサードパーティー製品に関するものであり当該製造会社がその法的責任を負う。詳細は当該製造会社に問い合わせのこと。
2 本製品は開発中の段階でまだ市販されていない(WIP)。今後の販売は未定。
結果
表1に膵腫瘍および膵実質組織の2群における中央値と標準偏差(SD)を示す。
Kruskal-Wallis検定に基づき、MD、fp、Dtの中央値に2群間で統計学的有意差が認められたが、ダイナミックパラメータでは有意な群間差が認められなかった。表2に正常膵実質と膵腫瘍の鑑別におけるMR抽出パラメータの診断精度を示す。WII、MD、fp、Dpの正診率は68%以上であった。MDは正診率が78%で最も好成績であった。
考察
本研究の目的は、DCE-MRIから得た灌流パラメータ、DKIおよびIVIMから得たDWIパラメータの膵腫瘍と正常膵実質の鑑別における診断能力を評価することである。膵癌の評価におけるDCE-MRIの正診率は依然としてはっきりしない。その一因は、膵腺管癌における微小血管成分の描出不良である。これは腫瘍によく見られる血管の機能障害(形成が不完全でもろく漏れやすい血管なので)によって説明できるだろうし、血管に付着する間質マトリクスが目立つことでも説明がつくだろう。さらに、腫瘍の中心部では活性化された膵星細胞による線維性間質の生成が増加し、これが血管を圧迫することで血管分布や灌流に変化が生じる〔7, 8〕。いくつかの研究が充実性膵病変の性状評価におけるDCE-MRIの実行可能性を検討している〔7,8, 11〕。
Kimら〔7〕は膵癌患者24例を検討、8例が膵神経内分泌腫瘍(PNET)、3例が慢性膵炎、10例が正常膵であった。各患者群のKtrans、kep(造影剤のEESから血漿中への移行定数)、初期血中濃度曲線下面積(iAUC)を評価した。その結果、膵癌患者群のKtrans値、kep値、iAUC値(それぞれ、0.042min-1±0.023、0.761min-1±0.529、2.841mmol/sec±1.811)は正常膵群の各値(同0.387min-1±0.176、6.376min-1±2.529、7.156mmol/sec±3.414)に比べて有意に低かった(全てP<0.05)。また、PNETと正常膵のkep値にも有意差が認められ(P<.0001)、膵癌とPNETのKtrans値、kep値、iAUC値にも有意差が認められた(それぞれ、P<0.0001、P=0.038、P<0.0001)。Baliら〔8〕は切除可能な限局性膵病変の患者28例を対象に、DCE-MRIの1コンパートメントの薬物動態モデルから求めた定量的パラメータ〔Ktransおよび分布の割合(distribution fraction;f)〕および2コンパートメントの薬物動態モデルから求めた定量的パラメータ〔Ktransおよび血管腔が占める組織体積の割合(vp)〕と、限局性病変および非腫瘍組織における線維成分および微小血管密度(MVD)との相関性を検討。腫瘍組織と非腫瘍組織の薬物動態パラメータを比較した。線維成分の検出におけるDCE-MRIの診断能についても検討した。その結果、原発性悪性腫瘍のKtransは良性病変(P=0.023)、非腫瘍膵組織下流側(P<0.001)および上流側(P=0.006)に比べて有意に低く、原発性悪性腫瘍のfおよびvpは非腫瘍膵組織下流側に比べて有意に高かった(それぞれ、P=0.012、P=0.018)。線維成分はKtransと負の相関が認められ、fおよびvpと正の相関が認められた。MVDはfおよびvpと正の相関が認められた。線維成分の検出における1コンパートメントモデルのKtrans(カットオフ値0.35min-1)の感度は65%(37例中24例)、特異度は83%(12例中10例)で、2コンパートメントモデルのKtrans(カットオフ値0.29min-1)の感度は76%(37例中28例)、特異度は83%(12例中10例)であった。
我々は造影剤の経時的変化を表す半定量的な記述子(MSD、TTP、WIS、WOS、WII、WOI、WOS/WIS、WOI/WIIなど)を検討した。その結果、ダイナミックパラメータに関して群間差はなかったものの、WISとKtransとの間には統計学的に有意ではないが差が認められた〔30〕。拡散パラメータはDWIを用いて検討することができる〔39〕。
IVIMモデルは血流量の割合(灌流)と微小構造に関する情報を別々にDWIから抽出できる理論的な枠組みを与えるものである。このため、DWIの腫瘍への応用においてIVIMに対する関心が高まっている。IVIMは血流量の割合、灌流を含まない拡散係数(微小構造パラメータ)、擬似拡散係数を同時に定量化できるからである。これは造影剤を用いない毛細血管網内の血液動態評価に結びついている〔36, 37〕。
IVIM由来パラメータは充実性限局性病変の性状評価に有用であるため、IVIMは膵癌を検出できる有望な手段であると報告している研究がいくつかある〔22, 40, 41〕。
Kangら〔40〕はよく見られる膵腫瘍、慢性膵炎、正常膵の鑑別および膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の可能性がある悪性腫瘍の性状評価におけるADCおよびIVIM由来パラメータの診断能を検討した。対象は外科的に切除した膵腫瘍93例(PDAC 39例、NET 17例、IPMN 37例)、慢性膵炎7例、正常膵26例であった。ADC、遅い拡散成分(Dslow)、インコヒーレントな微小循環(Dfast)、灌流の割合(fp)を算出した。その結果、PDACのDfast値およびfp値は正常膵、慢性膵炎、NETに比べて有意に低かった(全てP<0.05)。DfastおよびfpはPDACとNETの鑑別において有意差を示し(ともにP<0.0001)、ROC曲線分析においてADCおよびDslowより有用なパラメータであった(全てP<0.05)。悪性IPMNは良性IPMNに比べてADC値およびDslow値が有意に低く、Dfast値およびf値が有意に高かった(全てP<0.05)。ROC曲線分析において、fpは悪性・良性IPMNの鑑別におけるROC曲線下面積が最も大きかった〔40〕。
KangらはPDAC、正常膵、慢性前立腺炎、NETの鑑別において灌流は拡散より重要な因子であるかもしれないと結論付けている。また、fpは悪性・良性IPMNの鑑別におけるROC曲線下面積がADCおよびIVIM由来パラメータの中で最も大きかった。したがって、IVIM DWIは細胞密度に関する情報(Dslow)だけでなく灌流に関する情報(Dfastおよびfp)が得られることから〔40〕、我々は最もよく見られる充実性膵腫瘍または嚢胞性悪性膵腫瘍の性状評価に有用な手段であると考えている。
Klaussら〔41〕は膵腺管癌(PDAC)および膵神経内分泌腫瘍(PNET)を対象に、IVIMモデルから得たパラメータと組織学的に確定した微小血管分布との相関性を検討した。IVIMパラメータは2種類の関心領域(VOI)、すなわち総腫瘍体積(TTV)を囲むVOIおよび組織学的な腫瘍占拠部位(RTV)に相当するVOIを用いて算出した。その結果、PDACはPNETに比べて血流量の割合fpが有意に低く(9.9%±5.4% vs. 15.5%±5.2%、P<0.0001)、拡散係数Dtが有意に高かった(1.2±0.18×10-3 vs 1.03±0.15×10-3mm²/s、P=0.001)。擬似拡散係数Dpに有意差は認められなかった(44.9±52.9×10-3 vs. 53.8±51.2×10-3mm²/s)。また、PDACはPNETに比べて微小血管密度MVDが有意に低かった(36.8±25.9/mm² vs. 80.0±26.1/mm²、P=0.0005)。RTVを用いた算出ではPDACとPNETの血流量の割合fpとMVDが良好な相関を示したが(r=0.85)、TTVを用いた算出では中等度の相関(r=0.64)であった。また、RTVおよびTTVを用いた算出でfpと微小血管面積との間に中等度の相関が認められた(r=0.54/0.47)。
我々はADCおよびIVIM関連パラメータ(Dp、fp、Dt)、組織拡散がガウス型モデルから逸脱している程度を表す尖度係数、DKIによる非ガウス型バイアス補正を行った拡散係数を検討した。近年、DKIはさまざまな腫瘍の治療効果の評価に用いられている〔42-44〕。
我々の知る限り、灌流・拡散因子(ADC、IVIM、DKI由来パラメータ)による膵癌組織と正常組織の鑑別を分析した近年の研究はない。
我々のKruskal-Wallis検定に基づく所見によれば、MD、fp、Dtの中央値には統計学的に有意な群間差が認められた。正常膵実質と膵腫瘍の鑑別において、MDは正診率が78%と最も好成績であった。我々の研究において、PDACの灌流関連因子(fpおよびDp)およびDKIのMDは正常膵実質とは異なり、ADCに比べて診断能が良好であった。PDACと正常膵実質の鑑別診断は通常は容易だが、場合によっては鑑別に問題を生じるほど画像上の特徴が共通していることがある。したがって、PDACと正常膵実質の灌流関連因子に有意差があることは、臨床医にとって最も正確な診断を行う上で有用な可能性がある。さらに、これらのパラメータは全身療法および膵局所療法のレスポンダーとノンレスポンダーをできる限り迅速に特定して治療効果を評価する上でも有用なはずである。

結論
膵癌の正確な診断は病期分類を円滑に行う上で不可欠であり、ひいては適正な治療管理を可能にする。IVIMおよびDKIから得たパラメータとDCE-MRIの半定量的パラメータの一部は、正常膵実質と膵腫瘍の鑑別に有用な可能性がある。正常膵実質組織と膵腫瘍を最もよく鑑別できるパラメータはMSD、WOI_WII、DKIのMD、fpである。