京都市南東部の伏見区にある京都医療センターは、地域医療の発展に力を注いでいます。2021年12月に、さまざまなハードルを乗り越えてハイブリッド手術室を導入した同院では、多くの診療科が画像支援下手術を行い、非常に高い稼働率を誇っています。今回は、麻酔科で手術管理担当診療部長の七野力先生に、ハイブリッド手術室のコンセプトや運用についてお話をうかがいました。
麻酔科についてご紹介ください。
開設時は麻酔科医が私一人でしたのが、“断らない”ことをセンター内に対して宣言しました。救命救急センターが併設されていますので、緊急症例が頻繁に搬送されてきます。そのような症例に対しても、麻酔科の都合で断ることはせず、可能な限り受け入れる。それが地域医療を支える根幹であり、当センターの経営にも資することだと考えていました。しかしながら、現実問題として麻酔科医一人でやれることは限られています。そこで、この宣言を画に描いた餅にしないために、まず、麻酔科医を募集し増やすことに注力しました。この行動は、昨今の働き方改革にも合致するものであり、実現できれば麻酔科医一人あたりの負荷軽減に繋がります。その甲斐あって、現時点の麻酔科のスタッフは12人まで増えました。
手術室の運用における特徴などをお聞かせください。
手術室の運用の基本は稼働率の向上です。いかに効率よく手術室を使用するかを第一に、当センターの場合は手術の種類を問わず、どの手術室でも行えるように設計しました。また、患者さんの動線を考慮し、救命救急センターと直結するエレベーターを手術室内に置くという設計が特徴の1つといえます。これにより、救命救急センターの集中治療室から病棟間の廊下を通ることなく、エレベーターで直接手術室に患者さんを移動させることができるようになりました。これは設計者として自慢できるところだと考えています。
ハイブリッド手術室の導入までの経緯をお聞かせください。
導入以前は、ハイブリッド手術室とはTAVI 専用の手術室のことだと思い込んでいました。たとえそうだとしてもTAVI は先端的な治療ですから、当センターが教育機関であること、新たな手技、新たな知識が得られれば麻酔科医の募集にも有効であると考え、いろいろと勉強しました。そうすると、整形外科領域や脳神経外科領域など、ハイブリッド手術室が適した手術は多くの診療領域にわたることがわかりました。そして、これだけ応用範囲が広ければ国立病院機構や経営層を説得しやすいと考え、当センターにも設置という意を強くしました。実際、ハイブリッド手術室の設置を経営層も基本的に了承してくれたのですが、条件がつけられました。手術件数を減らすことなく、既存の手術室スペースの中で工事を進めよと。ハイブリッド手術室には血管撮影装置をはじめとして、さまざまな機器を設置しますから、それに見合う大きな面積の部屋が必要になりますので、まずは他の手術室との相対的な配置の問題が出てきます。さらに、すぐ隣の部屋で通常通り手術を行いながら、どうやって装置類を搬入するかなど、途方に暮れた次第ですが、多方面からの協力を得て無事完成することができました。
貴院のハイブリッド手術室のコンセプトおよび運用法についてご解説ください。
TAVI のみに使用するのではとても稼働率が上がりませんから、必然的に多診療科が活用可能というのが当センターのハイブリッド手術室のコンセプトになりました。幸いなことに、整形外科から脊椎の手術にハイブリッド手術室を使用したいという申し出があり、蓋を開ければどこの診療科よりも積極的に使用する状況となりました。脳神経外科からも同様の申し出があり、そうなると使用希望日がバッティングしない運用方法が求められます。そこで、ハイブリッド手術室の使用日をまず奇数週と偶数週に分け、さらに曜日で分けて時間枠を設定し、希望する診療科に割り振るという形にしました。具体的には、毎週月曜日を整形外科、火曜日を隔週で循環器内科と整形外科に、水曜日も隔週で脳神経外科と心臓外科(ステントグラフト内挿術)に、木曜日と金曜日は空けておき、循環器内科におけるペースメーカー埋設術や血管外科の末梢動脈閉塞症に対するバイパス術など、画像を使用する手術を行う際に当てるというものです。これらのいずれでも使わない場合は一般の手術にと考えていたのですが、現在はその余地がないフル稼働状態となっています。
ARTIS phenoに関するご評価をお聞かせください。
私は麻酔科医ですから、血管撮影装置の機能について評価する立場にはないのですが、素人目にも画像が以前のものとは全く違うこと、鮮明なことはわかります。ただ、大きな装置ですから、麻酔を行う際のリスク管理、例えば、装置をよけようとしてぶつかって点滴漏れを起こすとか、気管チューブが蛇管から外れることのないよう、自らの動線とともに、患者さんの体位変換や移動に十分な注意を払うようにしています。寝台も麻酔に配慮した設計ではありませんし、不満はあるもののそれは致し方ないことと割り切っています。
ハイブリッド手術室の将来像についてご意見をお聞かせください。
麻酔科医自身が直接手技を行うことはないので、あくまでも手術あるいは手術室を管理する立場としての意見ですが、将来的な使用頻度の増加を見据えて効率的な運用に乗せることが求められると考えています。いくら通常の手術にも使えるとは言え、それでは宝の持ち腐れです。どうすればハイブリッド手術室の有用性を最大限に引き出せるか、どうすればこの部屋を必要とする手術例を増やせるか、当センターの場合は多診療科が競うように使用しているので心配はないのですが、一般的にはこれが管理者としての今後の課題だと捉えています。
(2022年6月8日取材)