京都市南東部の伏見区にある京都医療センターは、地域医療の発展に力を注いでいます。2021年12月に、さまざまなハードルを乗り越えてハイブリッド手術室を導入した同院では、多くの診療科が画像支援下手術を行い、非常に高い稼働率を誇っています。今回は、副院長兼心臓外科診療科長の白神幸太郎先生に、ハイブリッド手術室導入経緯、運用方法等についてお話をうかがいました。
心臓外科についてご紹介ください。
地域における心疾患治療の最後の砦をモットーに、患者さんの安全・安心を第一優先としています。当科を受診される患者さんは高齢化し、病状の重症化とともに緊急症例も増えてきていますので、このような変化を踏まえた時代の流れに応じた診療を進めています。経験豊富な医師が多い点が、この診療方針を実践する上での当科の強みの1つであり、4人の常勤医は全員が心臓血管外科専門医の資格を保有しています。
循環器疾患に関する治療方針あるいは特色などをお聞かせください。
ハイブリッド手術室の導入経緯、コンセプト、運用方法についてお聞かせください。
治療の低侵襲化は大きなトレンドであり、患者さんの利益に繋がる点で無視できません。循環器領域という大枠で低侵襲化治療の実践を考えると、まずは内科、外科が境界なく取り組むことの必要性を意味しますし、教育機関という当センターの側面を考えれば、治療選択の幅を拡げることは医師がキャリアを積む上で大きなメリットになり、決して患者さんだけに資することではありません。こういった背景を踏まえ、以前から循環器内科との間ではハイブリッド手術室をつくってTAVIを行えるようにしなければならない、それが時代の要請だと話し合ってきました。導入から8ヵ月を経過した今、埋めることが難しいのではと懸念していた枠が、逆に不足するほどのフル稼働状況になっています。
ハートチームについて心臓外科のお立場からご解説ください。
当センターの心臓外科は常勤医が私一人しかいない状態で立ち上がりましたので、開設当初から循環器内科の支援を受けていました。気がつけば、冠動脈疾患に対し、結果的にバイパス術を選択しても、PCIを選択しても、必ず両科で治療法を検討するのが当然という関係が築かれていました。したがって、今回のハートチーム発足に当たっても両診療科のスタッフに違和感はなかったと思いますし、極めて円滑にスタートできたと考えています。複数の診療科と多職種が参加するハートチームは、考えてみれば医療本来のあるべき姿ですし、ハイブリッド手術室の導入によってそのことに改めて気づかされたと同時に、今はその確立に向けて楽しく取り組んでいます。
ハイブリッド手術室の活用状況についてお聞かせください。
ステントグラフト内挿術、開心術、末梢のASO 治療時に活用しています。ハイブリッド手術室で行うようになり、ステントグラフト内挿術の精度は格段に向上しました。開心術をハイブリッド手術室で実施する理由は、何らかのトラブルが生じた際のバックアップを考慮してのことです。ASO の治療では術中造影が必須となるので、とても有用です。予想していた以上に使い勝手がよく、用途も広いので高く評価しています。
ARTIS phenoについてどのように評価されていらっしゃいますか。
移動型の外科用イメージと比較すると、画質が向上しています。私たち外科医は、術中に術野を一所懸命に直視しますが、モニタに描出された参照画像を見ながら手技を進めるという経験はしてきませんでした。大変新鮮であり、このような術野の観察方法もあるのかと、まさに “目から鱗 ”でした。ただ、ARTIS phenoを入れたことで手術台の位置が高くなりましたので、手技によっては術者に無理な体勢を強いることがあるように聞いています。
低侵襲治療に対する今後の期待あるいは課題にはどのようなものがあるのでしょう。
低侵襲治療が増える理由には、もちろん、侵襲性は低いに越したことはないこともありますが、侵襲性の高い治療に耐容性がない症例が増えたことの方がより大きな要因として挙げられます。したがって、低侵襲治療時に何らかの問題が生じた場合のトラブルシューティングのほうが重要になります。ステントグラフト内挿術で合併症が生じたからといって、もともと適応のなかった開心術に切り替えるわけにはいかないわけです。低侵襲治療におけるトラブルをリカバリーする方法の確立と、それに習熟した医師の育成が課題だと考えています。いずれ、低侵襲治療が標準的な方法に位置づけられる日が来たときには、経験症例数が多くはなく、難度の高い患者さんを経験することの少ない施設でもTAVIやステントグラフト内挿術が行われるようになると思います。一方で、トラブルは一定頻度で生じます。それ故、トラブルシューティング技術に習熟した医師のいない施設で低侵襲治療を行うには、より慎重なアプローチが求められます。
ハイブリッド手術室向け血管撮影装置に対する今後の期待についてお聞かせください。
サイズを縮小してほしいと思います。血管撮影装置だけではありませんが、広いと思っていたハイブリッド手術室も種々の機器の設置後は狭く感じました。被ばく量の低減も望みます。今後とも高解像度、高精細な画像の描出という方向が追究されると思いますので、それに伴う放射線量の増加が気になります。また、AI搭載の必要性はさて置き、画像に対する術者ニーズに対し、よりスピーディーに、より正確に、それもリアルタイムに応える機能が求められるのではないでしょうか。心臓外科医としては、冠動脈バイパス術を行う際、鮮明な3D透視画像で血管の動きを見ながら執刀するのは興味のあるところです。
Siemens Healthineersに 対 するご 意 見、ご要望をお聞かせください。
今回のハイブリッド手術室の導入にSiemens Healthineersと一緒に取り組めたことはよい経験になりましたし、そのサポートに感謝しています。ただ、まだ稼働から8ヵ月ということで、これからも装置の保守やバージョンアップなど、ハイブリッド手術室の運用面で何かとご支援していただくことになると思いますので、サポートをお願いしたいと思っています。
(2022年6月8日取材)