京都市南東部の伏見区にある京都医療センターは、地域医療の発展に力を注いでいます。2021年12月に、さまざまなハードルを乗り越えてハイブリッド手術室を導入した同院では、多くの診療科が画像支援下手術を行い、非常に高い稼働率を誇っています。今回は、TAVIの実施に意欲的に取り組んでおられる循環器内科医長の阿部 充先生にお話をうかがいました。
循環器内科についてご紹介ください。
当科は、当センターが担う臨床、研究、教育をバランスよく実践できている診療科だと自負しています。臨床に関しては、一般的なカテーテル治療は言うまでもなく、高度かつ先進的な技術をもって対応しています。研究面では、伏見区を中心とした南京都地域在住の心房細動患者さんを登録し、背景因子、治療内容、予後追跡を行うregistry研 究「 伏見心房細動患者登録研究(Fushimi AF registry)」を2011年に開始しました。この研究を通じて、当該地域における脳梗塞の発症を極力減らそうと考えています。また、質の高い臨床はレベルの高い臨床研究によって実現できるという考えの下、心臓カテーテル検査および治療をテーマに国内外の関連学会での発表や英文誌への論文掲載を目指した活動を行い、実績を上げています。教育の面では、当科で後期研修を受けた医師が大学に戻って臨床研究に取り組んだり、国内留学という形で関連施設において診療に従事したりしています。特筆すべき特徴は、心臓外科との関係だと思います。両診療科では以前から良好な関係を築いており、救命救急センターの救急救命科や救命集中治療科とも連携して診療に当たっています
SHDの治療に関する方針、今後の展望についてお聞かせください。
SHDの治療については、ハイブリッド手術室もできたことですし、TAVIに注力していこうと考えています。ただ、当センターは必ずしも循環器疾患のハイボリュームセンターではありませんので、可能な範囲で症例数を増やすことと安全に行うことを目標にしています。一方で、心房細動などの不整脈領域に関しては名の通った施設ですから、その強みを活かして経カテーテル的左心耳閉鎖術に取り組もうと考えています。また、僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的僧帽弁クリップ術についても、状況を見ながらですが、トライしようと考えています。
ハートチームについて循環器内科のお立場からご解説ください。
チーム医療を行う際の組織にはさまざまな形があります。意欲のある人(多くの場合医師なのですが)が自分の意に従うメンバーを集めて、「オレについて来い」というスタイルもありますが、当センターのハートチームの特徴を一言で表すなら「ヒエラルキーなき組織」です。チームのメンバーがおのおの主体的に意見を提出、最適解を得るにはどうすべきかについて知恵を出し合う、そこには主従関係は一切存在しない、そういうチームを目指しています。もちろん、必然的に当科と心臓外科がメンバーの主体になるわけですが、前述しましたように当センターの両診療科は以前より良好な関係を構築してきました。したがって、お互いを尊重するといった行動を無意識に採っていると言えます。この関係はハートチームにそのまま反映され、それぞれが自科のベストはこれだと主張し相手を抑え込もうというようなことはなく、中心に据えた患者さんにとってベストな治療法をチームとして提供するという目標の達成のために機能しています。
ARTIS pheno導入の経緯についてお聞かせください。
ハイブリッド手術室については国立病院機構本部から極めて厳しい審査基準が提示されましたので、導入するにはそれをクリアする必要がありました。特に、稼働率に関するハードルが高く、当科と心臓外科の領域だけでこの基準をクリアすることは困難でしたので、他の診療科にも活用してもらうしかありません。幸いなことに、脳神経外科と整形外科から使用したい旨の申し出がありましたので、稼働率を上げるための症例数確保のために両診療科の意向を最大限尊重することにしました。その結果、血管撮影装置は天吊り式ではなく床置き式にしました。その上で画質、他の手術室で使用中の装置との比較、京都大学医学部附属病院他関連施設からの情報収集などを経て、どのX線透視・撮影装置を選んでも大きな差はないということになり、最終的には各診療科の要請に照らし合わせることを 条 件 に 事 務 方 に 一 任した 結 果、ARTIS phenoに決まりました。
ARTIS phenoについてのご評価をお聞かせください。
ステントグラフト内挿術や埋め込み型除細動 器埋設を行う際、私自身はPCIとTAVIを行った際にARTIS phenoを使ったのですが、問題は感 じませんでしたし、画像はとてもきれいです。画像が粗いと血管の石灰化が明瞭には描出されず、弁輪面なども予測しづらいのですが、ARTIS phenoでは鮮明な画像が得られ、動きも円滑ですので手技の確実性向上に繋がっています。強いて問題点を挙げるとすれば、Cアームが予想 外の位置にあり、他の機器との干渉に注意する必要があることでしょうか。
心疾患の治療についてどのような展望をお持ちでしょうか。
私たちの予想の範囲を超えて実現された治療法というと、大動脈弁狭窄に対するTAVIもそうでしたが、心房細動に対するアブレーションが挙げられます。しかし、日本の現状と将来を考えると、今以上に経済的に豊かになることは考えられず、むしろ貧しくなる一方ではないでしょうか。そうなれば、当然のことながら医療における費用対効果が今以上に重視されるようになります。将来的には、世界に冠たる国民皆保険の下、全ての国民に分け隔てなくベストの治療を提供することは困難になるでしょう。暗い話となりますが、高額になりがちな先端的治療は、行うことの意味がある人にのみ提供される時代が遠からず訪れると考えられますし、心疾患治療の適用にもさまざまな縛りが設けられるようになると思います。
ハイブリッド手術室向けの血管撮影装置に対する今後の期待についてお聞かせください。
X線透視・撮影装置自体の性能は、画質の向 上や被ばく量の低減という観点で評価すると、 既に現時点において限界に達しているように思えます。他方、ハイブリッド手術室に設置する装置という観点に立てば、落下菌などに配慮した衛生面の向上、術者の動線あるいは挿管された状態の患者や他の機器との干渉リスクを低減させるためのコンパクト化といった安全性向上のための改良が期待されると思います。
(2022年6月10日、14日取材)