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患者さん負担の少ないワンストップ肺がん治療を
ハイブリッド手術室で実現

山形大学医学部付属病院 呼吸器外科

2022-03-23
Dr.Oizumi-YamagatadaigakufuzokuHP20220316

山形大学医学部付属病院  第二外科准教授  大泉弘幸先生

山形大学医学部附属病院では、臓器横断的なチーム医療を推進し、山形県の医療の最後の砦として先進医療を提供している山形大学医学部附属病院。こちらの第二外科は心臓血管外科、呼吸器外科、ならびに小児外科の3部門の専門外科領域を擁する診療科で、心臓、大血管、肺・気管支から小児までさまざまな疾患に対し各専門の垣根を越えた診療が特徴です。その3部門の1つである呼吸器外科では、患者さんへの負担が少ない低侵襲治療として肺がんの胸腔鏡下手術(Video Assisted Thoracic Surgery - VATS)も積極的に行っており、ハイブリッド手術室を効果的に活用しています。今回は、第二外科准教授の大泉弘幸先生にお話をうかがいました。(2021年12月21日取材)

当院の呼吸外科では、比較的早い時期から胸腔鏡下手術VATSを始めていました。1994年に肺がんのVATSを開始して以来、手術件数は増減した時期もありましたが、2000年以降は増加傾向が顕著です。これはCT装置の普及と進歩により、すりガラス陰影(ground-glass opacity - GGO)が描出できるようになり、それを手術する機会が増えたことが要因です。それに伴っていわゆる標準手術の肺葉切除やもっと小さい区域切除、部分切除へ応用できるようになり、縮小手術が増加しました。当科では3D CTを活用して区域切除や部分切除を容易に行えるよう取り組んできた歴史があり、それが特徴と言えると思います。加えてSiemens HealthineersのX線透視・撮影装置「Artis zeego」とコーンビームCT「syngo DynaCT」(以下DynaCT)をハイブリッド手術室に導入した際、心疾患領域で利用できるのであれば、肺がん領域でも利用できないかといち早く取り組めました。これは、当院第二外科では私たち呼吸器外科医が心臓血管外科とともに診療・研究をおこなっていることのメリットかもしれません。

当院の肺がん切除症例数は現在年間120例程度です。ここ2~3年は横ばいですが、10年前と比較すると倍増しています。その中で5年前くらいまでは区域切除が増えてきていましたが、小さいGGOなどは手術せずに経過観察するなど、適応の見直しもありました。そのため現在の割合としては区域切除が30%、部分切除は10%程度です。縮小手術の適応は今後も種々の検討が必要で、充実性の部分が占める割合を含め、腫瘍の性状などを熟慮して決定する必要があると考えています。ですが現時点では、少なくとも区域切除の約30%という割合は減らない、また部分切除についての割合も同等か微増と思われます。この傾向は今後の診断・治療機器の発展によっても変わってくるかもしれません。

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局在診断や局在同定が容易な場合、たとえば胸膜直下にあって明らかに見えるような腫瘍であれば、通常の手術で良いですが、GGOを含むものや充実性でも小さな結節は、それが胸膜から5mm以上、もしくは1~2cm以上離れている場合など、腫瘍の局在が胸膜から離れれば離れるほどハイブリッド手術室での部分切除術が有効になってきます。ただし、距離が離れすぎると部分切除自体が適応外となり、区域切除で行わざるを得なくなります。この場合はハイブリッド手術室で行う必要はなくなってきます。したがって、胸膜からの距離が0.5cm - 2cmにある腫瘍部分切除術が、ハイブリッド手術室で行うための良い適応となり得ると言えるでしょう。これは切除すべき腫瘍の種類や性状によっても変化しますが、たとえばGGOの柔らかい肺がんを切除する際はハイブリッド手術室が有用です。GGOでは3mm程度の深さであってもハイブリッド手術室での手術が必要な場合もあります。転移性肺腫瘍の場合は、多少深い位置にあっても肺が虚脱すれば腫瘍が見えてくるため、通常の手術室で手術可能です。部位、胸膜の肺の形状、深さ、腫瘍の形状などを総合的にみて判断する必要があります。

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メリットは局在同定がワンストップショップ、全身麻酔下で1回の流れの中でできることでしょう。他の方法だと、前日または前々日に局所麻酔下で患者さんに痛い思いをさせてVATSマーカーを入れる必要があります。そこで患者さんが咳をしたり喘いだりしてしまうと、肺が傷ついて空気が肺静脈に流入し、空気塞栓症を起こして脳梗塞に至る場合もありえます。ハイブリッド手術室で行う場合、全身麻酔下でVATSマーカーを留置するため、患者さんが咳をすることもないなどメリットも多く、まだ質の高いエビデンスがあるわけではないですが、空気塞栓のリスクも軽減できると個人的には考えています。私が閲読したiVATS(C-arm CTを用いた画像支援下にマーカーを留置する部分切除術)の論文では、全身麻酔下手術において肺の空気塞栓症を起こした症例はありませんでした。したがって合併症予防の観点、手術時間短縮、必要以上に人員を割く必要がない、そして手術当日のみで完結できることなどがメリットと言えるでしょう。

事前トレーニングのようなものは、あるに超したことはないと思いますが、デバイス刺入時の指先の感触やデバイスを刺す深さなど、実際の術式でないとわからないことも多く、どのようなトレーニング方法が良いかを判断するのは難しいと思います。たとえば動物を使ったりファントムを使ったりしたトレーニングが考えられますが、そこで練習を積めば実際の手術も上手にできるかというと必ずしもそうはなりません。皮下脂肪が厚い患者さんなどは、少し皮膚を押しただけでデバイスが深く入ってしまうなど、術者が個々に考えなければならないことがあり、トレーニングしただけでは不十分と言わざるを得ないでしょう。
VATSの経験があれば腫瘍切除に関しては問題ないと考えます。iVATSの場合は胸膜側からアプローチしますが、それもケースバイケースです。また気管支からアプローチする術式もあります。VATSマーカーの種類も、フィデューシャルマーカーやRFID(Radio Frequency Identification)を応用した極小ICタグもあり、デバイスごとの違いを把握しておくことが必要です。また内視鏡手術だけでなく気管支鏡手技も習得した方が良いでしょう。
Customer Voice山形大学病院

今日の症例のように、マーカーと腫瘍の位置関係が若干見えにくく判断がむずかしい場合には、途中でDynaCTを撮影して確認しながら進めています。このようなケースは常にあるわけではないですが、症例に合わせて応用できるのは良い点です。チタン製の鉗子があれば、DynaCTを撮影してもあまりハレーションしないので、マーカーの代わりに鉗子で掴んでからDynaCTを撮影できますが、当院ではチタン製鉗子がないため、チタン製のステープラーを打ち込み、それをマーカーの代用にしてDynaCT撮影をしています。今後ハイブリッド手術室を検討される施設では、チタン製手術器具の導入も考慮されると良いでしょう。術中のDynaCT撮影では、アームとの干渉で制約受けることも多いため、もう少しアームスペースなどに余裕があると良いと思います。また手台の使用も控えていますが、もし干渉しにくく固定できるような手台があれば、術中DynaCTもより撮影しやすくなると思います。画質面では、腫瘍の局在同定が目的なので腫瘍とその他の肺とのコントラストが重要です。充実型腫瘍であればDynaCTで同定できますが、肺が虚脱した状態のGGOだと、無気肺のような陰影と混在してしまい区別が難しくなることがあります。そのため、できるだけ肺が萎まない状態でDynaCT撮影する方が良いでしょう。肺へのデバイス刺入においては気胸を起こさないことがもっとも重要であり、デバイスを刺した状態のままでDynaCT撮影を行ったり、麻酔科医と連携して、可能であれば換気前にDynaCT撮影したりするなど、工夫しながら撮影しています。

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