Harald Maikischは、オーストリアの病院分野の専門家で、もうじきその経歴は40年になります。新しい病院を計画するとき彼は常に、その時に考えうる最良の案を検討するようにしています。最先端のテクノロジーと建築物は、人々のニーズに完璧に応えるものでなければならない、というのが彼の信念だからです。現在、彼はオーストリア・フォアアールベルク州で最大の専門病院であるLKH-Feldkirchを経営しており、ここには新しい手術・集中治療センターの中核をなすハイブリッド手術室があります。ハイブリッド手術室を作ったのは、文字通り「先見の明のある」決断でした。
オーストリアとスイスの国境近くに位置するLKH-Feldkirchでは、毎年約44,500人の入院患者が治療を受け、22,200件の手術が行われています。この膨大な数を考えると、病院側に課せられた要求は高いものと言えます ー 完璧なまでにシームレスなワークフローが求められるのです。事務局長のHarald Maikisch氏は、次のように説明しています。「最も重要なのは質の高いケアを提供することであり、それが私たちの目的でもあります。このために私たちは、オーストリアだけではなくヨーロッパ全土から最高の従業員を誘致すべく尽力しています」。
昨今、外科スタッフを確保するための病院間の競争は激しくなっており、優秀な専門医を求めるなら、可能な限り最高の条件を提供しなければなりません。病院側は基本的なこと、例えば魅力的な給与、優れたインフラ、家族への柔軟なケアなどを整える必要があります。またMaikisch氏は、病院のイメージも重要なポイントだと付け加えました。
「応募者は、自分が大事にしている信念に納得したいと思っています。当院では、ほとんどすべての種類の複雑な手術を行っています。設備の面でも優れており、必要とされるすべての機器が揃っています。」
Maikisch氏は、LKH-Feldkirchの規模の病院で、ハイブリッド手術室があるのは最先端を行くことだと説明します。ロボット C アームが設置されているLKH-Feldkirch のハイブリッド手術室は、何人かの応募者を選考中です。「全ての条件が揃っていなければ、最高のスタッフを集めることはできません」。
建設段階フェーズ:「鋼の神経」が必要
2015年2月に新しい集中治療センターの起工式が行われ、2019年春からハイブリッド手術室は稼働を始めました。建設の過程で、多数の深部掘削が必要だったため、責任者には鋼のような神経が求められました。しかも同時に、(注意深い監視のもとではありますが)センターでは手術も行われていたのです。これを聞くと、新しい手術室があるのは暗い地下だと想像するかもしれませんが、そうではありません。プランナーは文字通り「先見性のある」素晴らしいアイデアを思い付きました。新しい青いガラス張りのハイブリッド手術室に足を踏み入れると、目の前にスイスの山の風景が一望できます。手術スタッフが激務の合間に少しでも景色を楽しめるようにと、広いパノラマ式の窓が採用されたのです。
「全ての条件が揃っていなければ、最高のスタッフを集めることはできません」
シミュレーション:飛躍のためのマスタープラン
センター建設は、多くの面でこの地域にとって歴史的に重要な一歩となりました。この病院を運営する会社のCEOであるGerald Fleisch博士は、「LKH- Feldkirchのパラダイムシフト」であり、「医療サービスの大きな飛躍」だと語っています。「この飛躍が起こるずっと前から、Maikisch氏は、センターのワークフローシミュレーションの準備をしていました。これは、彼がBMWを訪問した際に思いついたものです。バイエルンの自動車メーカーBMWでは、ベルトコンベアを稼働させる前に、ロジスティクスのシミュレーションを行っています。Maikisch氏は、全く同じ手法を集中治療センターにも採用したのです」。シミュレーションの結果、12の手術室でプラン通りのサービスを提供できることがわかりました。また、ハイブリッド手術室を設置するのに十分なスペースがあることもわかりました。「当時、このタイプの手術室の構造はまだそれほど確立されておらず、ハイブリッド手術室にはどのような設備が必要なのかすぐにはわからない状況でした。そこで当社の医療部門が、この手術室の使い方を確立したのです」。
学際性:可能性の広がりを発見
このプロジェクトの原動力となったのが、血管外科部門長であるWolfgang Hofmann氏です。ハイブリッド手術室が稼働を始めて 6か月が経過し、医師たちはこの手術室の多様な用途を見つけ出しました。Hofmann氏自身は、大動脈疾患や頸動脈疾患の低侵襲手術や末梢動脈疾患の治療にもハイブリッド手術室の恩恵を受けられることを発見しました。脳腫瘍や頭蓋内血管疾患の手術では、ロボットCアームによる3Dイメージングを使用することで、外科医は即座に結果を確認することができます。整形外科や外傷の手術では、レーザーガイドのおかげで、スクリューを高精度に設置できるようになるというメリットがあります。
「医師たちは手技の進歩や、ハイブリッド手術室がなければ不可能だった新しい治療オプションが利用可能になったことを、熱心に報告してくれます」とMaikisch氏は嬉しそうに話します。いまやこのセンターでは、どの手術がハイブリッド手術室の恩恵を最も受けるかを正確に特定し、各分野間で利用時間を配分するほどに、使用頻度は高まっています。
「よりいい画像が撮影でき、手術中にすぐ結果を確認できるようになったので、治療の質が向上しています」
モチベーション:オーストリアで最も美しい手術室
Hofmann氏は現在、主に血管外科手術にHybrid手術室を使用しており、次のように語っています。
「よりいい画像が撮影でき、手術中にすぐ結果を確認できるようになったので、治療の質が向上しています。複雑な手術においても、短い時間でステントを正確に留置することができるので、造影剤の必要性が減り、放射線被ばく量を最小限に抑えることができます。手術時間が短縮され、治療による体への影響も少ないため、患者さんは入院期間を短縮できるようになりました」。
さらに彼はこう付け加えました。
「もう一つ。ここは今、オーストリアで最も美しい手術室であることは間違いありません。このことはもちろん、ここで働くモチベーションになっています」。
著者について
Andrea Lutz:医療、テクノロジー、ヘルスケアITを専門とするジャーナリスト、ビジネストレーナー。ドイツ・ニュルンベルク在住。