済生会熊本病院は医療を通じた地域社会への貢献を理念に掲げ、救急、高度、予防の各分野で機能の向上を図っています。今日の医療では治療の低侵襲化に対するニーズが高まっており、同院ではこれに呼応するために2013 年4月、熊本県内で最初となるハイブリッド手術室を導入し、2018 年4月からは2 室目も設置、運用しています。そこで、ハイブリッド手術室導入の経緯、運用上のポイント、注意点、将来像などについて、副院長 兼 麻酔科上席部長の原武 義和先生にお話をうかがいました。
麻酔科と中央手術部についてご紹介お願いします
当院の基本方針には、救急医療、高度医療、予防医療、地域連携、人材育成という5つの柱があります。特に、救急医療を実践することは必然的に緊急も含めた手術件数の増加に繋がりますし、事実、当院における2015年度以降の年間手術件数をみますと、5,500~6,000件弱で推移し、その約3割を緊急手術が占めています。また、麻酔管理症例は2015年度以降4,000~4,500件と全手術件数の約8割で実施される形で推移しています。当院麻酔科には常勤医10名が在籍しており、うち7名が麻酔科指導医、3名が同専門医の資格を有しています。また、5名が心臓血管麻酔専門医、6名が心臓手術時の経食道心エコーに関する認定資格を保有していますので、手術時に高いレベルの麻酔を提供できる点が特徴と言えます。さらに、中央手術部では麻酔科医に加え手術室看護師、臨床工学技士等が連携し、患者さんのケアおよび安全性の向上に努めています。また、医療秘書には麻酔について解説したパンフレット、DVD等を用いて手術予定患者さんおよびご家族に対して十分な理解を得ていただくとともに不安を取り除くための丁寧な説明をしてもらっています。チームに属する全ての職種が術前、術中および術後の万全な管理のために最新の知識と技術の習得にも努めています。
手術室の運用上の特徴についてお聞かせください。
当院では、現在13ある手術室が連日フル稼働に近い状態ですが、病床数400に対しての手術室数13という比率はかなり高い部類に入るのではないでしょうか。外科系各科に曜日別の使用枠を割り振るという方法ではなく、ほぼ毎日が各科の手術日になっており、さらに緊急、準緊急にも臨機応変に対応しています。必要なときに必要な手術が行えるという、外科部門の医師にとっては理想的な手術室だと思っています。
最初のハイブリッド手術室の導入経緯についてご紹介ください。
当院には2つのハイブリッド手術室がありますが、そのうちの1つは2013年4月に熊本県として初めて稼働した部屋であり、血管造影室エリアに設けられています。もう1つは2018年4月に運用を開始した部屋で、これは手術室エリアに設けられています。
まず、初めに稼働したハイブリッド手術室ですが、2012年8月に導入プロジェクトを立ち上げました。当時、TAVIの治験が終了し、保険適用となって全国的に拡がることが確実視されていましたが、実施するには3つの施設要件を満たさなければなりませんでした。専門医、症例数、そしてハイブリッド手術室です。TAVIや将来のトレンドに合致させるため導入ありきというスタンスで臨みました。その際、設置場所について様々な方向からの議論がありましたが、最終的には血管造影室エリアに決まりました。手術室側から見れば麻酔科医、手術室看護師、臨床工学技士のマンパワー分散、都度の手術器械、人工心肺装置等の移動という負担を引き受けることになりました。
2室目のハイブリッド手術室の導入経緯をお聞かせください。
2室目のハイブリッド手術室の導入が決まったのは2017年6~7月です。当時、別棟を建てることになったことが、導入を検討するきっかけの1つになりました。別棟への移転で空いた跡地開発の一環として手術室の増設、日帰り手術エリアの改修という形で話が進み、その最終段階でハイブリッド手術室を設置することになりました。通常の手術室を2つ増設するという意見もありましたが、血管内治療の件数が増加し、血管造影室だけでは賄いきれない状況にあったことや将来を見据えての決断でした。
2室目のハイブリッド手術室の稼働状況をお聞かせください。
1室目のハイブリッド手術室がどちらかと言えば血管造影室の性格が強かったのに対し、2室目は多くの診療科が多様な手術に活用するというコンセプトで運用に臨みました。したがって、室内の空調機能、X線透視・撮影装置を設置しても手術スタッフの動線に支障を来さないワーキングスペースを重視し、血管内治療を行わない場合は通常の手術室としても使用可能という条件も付与して、各社からの提案を吟味しました。
2室目のハイブリッド手術室の運用開始は2018年4月で、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で若干減りましたが、基本的には一貫して使用件数が増えています。用途の内訳をみますと、TAVI、ステントグラフト内挿術、経皮的僧帽弁クリップ術などの血管内治療、心臓外科、整形外科あるいは脳神経外科領域の手術となっています。また、この部屋に関しては曜日ごとに各診療科の使用枠を決め、割り振られた診療科が使用しない場合は他診療科が使う形を採っています。清潔度が高いことから、X線透視・撮影装置を使用しない手術にも活用されています。加えて、中央手術部所属スタッフの協力、血管造影室と手術室の看護師間の良好なコミュニケーションもあり、現状では極めて円滑に稼働していますし、今後とも柔軟な運用を心がけようと考えています。
多軸型X線透視・撮影装置ARTIS phenoについてのご評価をお聞かせください。
私自身が操作することはないので、あくまでも傍目から見た印象でしかありませんが、汎用性や操作性が高いのだろうということを感じます。痒いところに手が届くような使い勝手の良さが見受けられ、ロボティックな動きが心地よいという感想を持つ医師もいると聞いています。また、ARTISphenoという装置単独はもちろんですが、質の高い手術室とマッチして、全体としてとても完成度の高いハイブリッド手術室になったと感じています。
ハイブリッド手術室を運用する上でのポイントと注意点についてご教示ください。
使用する各診療科における相互理解と協力体制、多職種で構成された医療チームにおける職を超えた関係性が鍵になると思います。まず、医師なら医師同士、看護師なら看護師同士といった同職種内でハイブリッド手術室の使用に関する識を共有し、次に多職種間で情報を共有、同手術室のフル活用、フル稼働を念頭にコミュニケーションを図ることが重要だと思います。また、必要なデータを揃えてくれる事務方のサポートも不可欠です。こういった関係性の構築は、何らかのシステムを導入すればできるというものではなく、結局、最後は「人」を基本とした「チーム」ということに帰結するのだと思います。対面式のコミュニケーションが困難な状況だからこそ、より一層、重視すべき点だと考えています。
ハイブリッド手術室の将来像についてお聞かせください。
治療の低侵襲化という潮流はとどまることなく続くでしょう。したがって、ハイブリッド手術室に対するニーズも高まる一方だと思われます。並行するように血管内治療のデバイスも進化し、ロボット支援下手術などの高度治療も増える中で、これらとの協調も求められることになると予想しています。急性期治療を行う医療機関には必須アイテムとなるでしょうし、手術室内へのX線透視・撮影装置の設置は当たり前という時代が来ると想像しています。
Siemens Healthineersに対するご要望をお聞かせください。
ハイブリッド手術室導入時から満足のゆく対応をしていただいており、問題なく稼働していますし、メンテナンスも計画通り進めてもらっており、大変ありがたく思っています。これからも技術革新を進めていただき、様々な提案をしてもらうことを望んでいます。なお、ハイブリッド手術室の普及を考えた場合、十分なスペースを割けないという医療機関もあるでしょうから、ARTIS phenoについては小型化を図り、室内容積に制限がある場合であっても手術スタッフの動線が十分に確保できるようになるとよいのではないでしょうか。期待しております。
(2022年7月22日取材)