徳島県唯一の特定機能病院として県内全体の医療の維持と向上を図り、文字どおり県下の中核病院としての役割を果たしている徳島大学病院。都道府県がん診療連携拠点病院でもある同院の呼吸器外科では、手術中の位置同定が困難な小型肺病変に対して、大学独自開発の「金属コイルマーキング法」を用いた安全で確実な切除で、全国的にも注目されています。胸部・内分泌・腫瘍外科学分野教授であり、呼吸器外科 科長の滝沢 宏光先生に、モバイルCアームイメージングシステムCios Spinを使用して、従来はハイブリッド手術室で行われている金属コイルマーキング法を通常の手術室でも行うことができるかどうかを検証していただきました。
徳島大学病院の特徴と地域での役割などをご紹介ください。
徳島大学病院は、県内で唯一の特定機能病院として高度先進医療の実施・開発を担うとともに、都道府県がん診療連携拠点病院として県内の中心的ながん診療機能を担い、地域のがん診療の連携協力体制の構築にも尽力しています。令和3年度の統計では、外来患者数約47万人、入院患者数約20万7000人、手術件数は約7000件となっており、文字どおり徳島県下の中核病院としての役割を果たしています。また、徳島大学病院と徳島県立中央病院が隣接しているという立地条件を生かした「総合メディカルゾーン」が2018年に完成しました。これは、県全体の医療の質の向上を図ることを目的として構想された県民医療の拠点です。今後も医療連携と効果的な機能分化を強化しながら、よりいっそう地域医療に貢献できる大学病院であることを目指すとともに、県内唯一の医師養成機関として、人材育成の充実にもさらに力を入れていきたいと考えています。
呼吸器外科の特色はどのようなところでしょうか。
当院の呼吸器外科には呼吸器外科専門医が7人在籍し、そのうちの5人が気管支鏡専門医でもあります。「総合メディカルゾーン」を形成する徳島県立中央病院も含めると10名の呼吸器外科専門医が診療にあたっており、多くの専門医による充実した医療体制が特徴といえるかもしれません。徳島大学病院では現在、年間約250例の呼吸器外科手術を行っており、そのうち120例~130例が肺がんの手術ですが、総合メディカルゾーンを含めると症例数はその約2倍となります。総合メディカルゾーンでは3台のda Vinci®が稼働しており、呼吸器外科でも積極的にロボット手術を行っています。さらに、気道病変に対する光線力学療法、レーザー焼灼ステント治療といった気管支鏡インターベンションだけでなく、他の施設では内科が行っていることも多い気管支鏡下生検の診断精度向上にも力を入れています。このように、診断から治療までを呼吸器外科が一貫して行うという、守備範囲の広さも特色だといえるでしょう。
徳島大学で開発された、小型肺病変に対する金属コイルマーキング法についてお聞かせください。
近年は CT の進歩により、多くの微小肺がんや、その疑いのある病変が見つかるようになりました。しかし、その多くは術中、正確に場所を同定することが難しく、切除の際には何らかのマーキングが必要になってきます。そのマーキング法として徳島大学が独自に開発したのが、「金属コイルマーキング法」です。もともとは、血管内治療で用いていた金属コイルを応用した技術ですが、当院では2004年頃から取り組んでおり、約20年の歴史があります。これは、CTガイド下に気管支鏡を用いて経気管支的に病変の近傍に血管塞栓用コイルを留置し、それを目印に胸腔鏡を用いてCアーム透視下に切除するという方法です。当初は、IVR室で局所麻酔下に気管支鏡を挿入して金属コイルを留置し、3日~5日後に手術を行っていましたが、ハイブリッド手術室が導入されてからは、全身麻酔下に留置から手術までを同日に行うようになり、患者さんの負担が軽減しています。金属コイルマーキング法には、「手技が安全で気胸や出血、空気塞栓といった合併症が少ない」、「完全鏡視下で確実に病変を同定・切除できる」、「多発病変にも対応できる」といったメリットがあります。CT上早期肺がんと考えられる症例に対しても、十分なマージンをもった切除ができており、これまでに300例以上の実績がありますが局所再発は認められていません。金属コイルを小型肺病変の切除に応用する方法については、東京大学の佐藤雅昭先生が、従来の色素を用いたマッピング法に金属コイルを組み合わせる形で多施設共同研究を行い、その有用性を2022年のJTCVSに発表されました。徳島大学も参加させていただいたのですが、本法の保険収載が待たれるところです。
モバイルCアームイメージングシステムCios Spinの術中3D画像は、どのように活用できますでしょうか。
前述した金属コイルマーキング法において、高精細な術中3D画像による立体的な位置の把握に活用しています。金属コイルマーキング法は、1つしかないハイブリッド手術室で行っていますので、ハイブリッド手術室が空いていなければ行うことができません。しかし、Cios Spinがあれば、手術室であればどこでも行えるようになるでしょう。また、金属コイルマーキング法を行う場合、Cアームのほかに気管支鏡や麻酔器が入りますので、部屋が狭いとそれぞれが干渉することがあるのですが、Cios Spinはコンパクトでスペースをあまりとらないため、手術室の大きさを選びません。ハイブリッド手術室がない施設や、手術室が小さい施設でも、十分に活用できると思いますね。当院が今まで行ってきた金属コイルマーキング法の発展形が、このモバイルCアームの術中3D画像を活用した手技だと考えています。Cios Spinによって、日本に限らず、世界でも、より多くの施設で金属コイルマーキング法が行われるための裾野が広がっていくのではないかと感じています。
画質や操作性など、Cios Spinに対するご評価はいかがでしょうか。
透視画像も3D画像もとてもきれいです。3D撮影後に画像が出てくるのも非常に早いですね。金属アーチファクト低減機能MAR(Metal Artifact Reduction)の効果でしょうか、気管支鏡や金属コイルが入っている状況下でも、とてもきれいに見えます。1 cm以下の小型肺病変もくっきりと見え、安全かつ正確な切除をサポートしてくれます。従来のCアームに比べ、性能もモニタも格段に良くなったという印象です。操作性に関しても、モバイルCアームを移動させて撮影することに関しては何の問題もありませんし、Cアームの回転時にほかの装置と干渉することもなく、スムーズに運用できています。
Siemens Healthineersに対するご要望などをお聞かせください。
Cios Spinに関していえば、スピンにかかる時間の短縮ですね。呼吸とか心拍が影響する領域では、スピン時間が短ければ短いほどモーションアーチファクトが減少しますし、息止めなどの制約も少なくなります。現状では全身麻酔下で行う手技にしか使用できていませんが、3D撮影時間の30秒がもっと短縮できれば、活用できる範囲が大きく広がると思います。Cios Spinのメリットは、何といってもコンパクトで、動きが良くて、省スペースで、ハイブリッド手術室以外の手術室でも気軽に使えるところです。このメリットと、3D撮影時間の短縮を両立してもらえれば、メインの整形外科領域以外にも、多くの可能性が広がっていくのではないでしょうか。
(2022年7月22日取材)