急性期一般病棟入院料のランク分け
急性期一般病棟入院料1~6については、看護配置や平均在院日数も基本的な条件になっていますが、1~6のランクを決定づけているのはその病棟における「急性期の患者割合」です。急性期の患者割合とは、「重症度、医療・看護必要度」で定められた基準を満たす患者の割合のことです。より高いランクの入院料では、基準を満たす患者の割合がより高いことが必要になります。2024年度診療報酬改定で、「重症度、医療・看護必要度」とその基準が大きく変更されたため、多くの急性期病院に大きな影響が及ぶと言われています。
評価表と基準(2018年改定時)
これが、重症度、医療・看護必要度の評価表です。この図は2018年改定時のものです。当該病棟に入院しているひとりひとりの患者について、ここに書いてある各項目により点数付けをします。オレンジ色の部分はA:モニタリング及び処置等で、特定の処置、管理、専門的な治療を行っている患者であるか、ということ。救急搬送後の入院(2日間)という項目もここに含まれています。イエローの部分はB:患者の状態等で、患者のADLについての評価項目が並んでいます。ブルーの部分はC:手術等の医学的状況で、6とおりの手術と、救命等に係る内科的処置が含まれています。それぞれ点数をつけられる日数が規定されています。Aの8「救急搬送後の入院」と、Cの全項目は、2016年改定で加わったものです。この評価表により、「この患者はA得点が〇点、B得点が〇点、C得点が〇点」と評価されます。評価は毎日行われます。こうして出来上がった各患者の点数を、右下グレーのところにある「該当患者の基準」に照らし合わせます。対象の入院料ごとにこの基準が設定されています。この基準を満たす患者が、その入院料についての「該当患者」になります。
一般病棟についての基準の内容を見てみると:
- A得点2点以上かつB得点3点以上
- B14または15というのは認知症患者などが該当すると思いますが、それがあってA得点1点以上かつB得点3点以上
- A得点3点以上
- C得点1点以上、すなわちいずれかの手術後規定日数以内の患者
この4つのいずれかを満たすと、「急性期の患者」に該当する患者と見做すわけです。この該当する患者の割合を各入院料の施設基準で定めてあり、上位ランクの入院料ほど高い率が設定されています。なお、特定機能病院や専門病院の一般病棟でも同一の評価表を用いていますが、該当患者の基準や割合は別となっています。
2018年~2024年のA項目C項目の改定ポイント
2018年から2024年にかけての改定で、評価表のA項目、C項目について行われた改定内容をまとめた図です。図中の青字のコメントは、基準を緩和する(病院にとって有利な)変更、赤字のコメントは基準が厳しくなる、病院にとって苦しくなる変更です。この表より前の2016年改定ではAの「救急搬送後の入院」とCの全項目が加わったのですが、その4年後の2020年には、そのそれぞれについて、点数をカウントできる日数が大きく延長されました。また「緊急に入院を必要とする状態」と、「別に定める検査」「別に定める手術」が追加されました。これにより、より高い入院料の基準をクリアするために「該当患者」の割合を上げるには、救急、緊急入院、手術、の患者を数多く入院させることがますます有効となりました。ところが、2024年改定では、まったく逆の変更が行われました。救急搬送後や緊急入院の日数は大幅に短縮され、手術についても軒並み短縮されました。これにより、救急・緊急入院や手術の患者について、従来より短い日数のうちに基準を満たす割合が下がってしまいます。また、A項目から褥瘡の処置や静脈栄養の点滴が除外されたため、高齢患者の該当割合が下がる変更となりました。
一般病棟の該当患者の基準の変遷
一般病棟の該当患者の基準(評価表のグレーの部分)についての変遷をまとめた図です。2018年は、2ページ前でご紹介した4項目です。このうち4番目の赤字の項目は2018年に追加されたものですが、2020年に削除となっていて、それ以外の3項目は2016年からずっと変わっていませんでした。そしてこの基準は、一般病棟すべてについて同一でした。ところが2024年度改定において、入院料1(7対1)のみ、図のように別の基準になりました。大きなポイントは7対1にはB項目(ADL関連)を含むものが無くなったことです。これも、高齢患者の該当割合が下がることにつながります。特定の処置、管理、専門的な治療を行っているかあるいは救急搬送か緊急入院の患者、または手術患者。この切り口のみで、該当患者の割合が設定されることになったわけです。そして、該当患者割合の基準は、2024年改定で下の表のようになりました。このように、入院料のランクが上になるほど、高い割合が設定されています。改定内容を審議する中医協では、評価表の各項目の内容、該当患者の基準、該当患者の割合、を組み合わせた複数の改定案について、どれくらいの病院が施設基準を満たさなくなるかのシミュレーションを行って審議していますが、2024年度改定の審議では、中医協の支払い側と診療側との意見の隔たりが大きく妥協点が見いだせなかったため、公益委員による裁定で決着しており、病院側にとってかなり厳しい内容であったと考えられます。この新たな基準は2024年度診療報酬改定が施行される2024年6月から適用されるのではなく、9月末までは経過措置として3月末まで届け出ていた入院料を継続できることになっています。
重症度、医療・看護必要度に関する改訂のポイント
上記でご説明した内容の重要ポイントのみをまとめた図です。2016年度改定から2024年度改定までは、手術患者や救急搬送・緊急入院患者の受入を増やすことがそのまま重症度、医療・看護必要度による「重症患者の割合」アップにつながっていましたが、2024年度改定では、それらの患者でも短い日数のうちに基準を満たさなくなるようになりました。また、高齢者に多い医療処置がA項目から削除され、急性期一般病棟入院料1~5を算定している病院にとって、厳しい内容となりました。また急性期一般病棟入院料1(7対1病棟)の該当患者の基準は別建てで厳しくなるとともに、ADL関連のB項目が除外されるなど、高齢患者についてさらに厳しくなる内容となりました。この結果、急性期病棟の入院料のランクを維持するために必要な方向性が、2024年改定で大きく変わりました。手術や救急搬送のあった患者でも、短い期間で転棟・転院をする、高齢の入院患者の比率を減らす、といったことが求められるようになりました。高齢者以外で新規入棟患者の数を増やすか、それができないのであれば、複数ある急性期一般病棟の数を減らすことで回転数を上げる、すなわち一部を今回新設された地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟に転換するか、病棟のダウンサイジングを行うことが必要になります。そしてその中でも、急性期一般入院料1(7対1病棟)に対するプレッシャーが最も厳しくなっていると言えます。
地域包括医療病棟の新設
2024年度改定で新設された「地域包括医療病棟」の目的は、「高齢者の救急患者等に対して、一定の体制を整えた上でリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に提供すること」とされています。今回の重症度、医療・看護必要度に関する改定で、急性期病棟での基準クリアが最も厳しくなる高齢者の救急患者を対象の中心にしたものと考えられます。加えて、従来から重症度、医療・看護必要度で評価されにくいとされてきた内科系疾患の患者も対象になると考えられます。したがって、この新しい病棟は、おもに急性期一般病棟からの転換を想定しているものと言えるでしょう。地域包括医療病棟については、Vol.3地域包括医療病棟から読み解くで詳しくご紹介します。