急性期病棟、地域包括ケア病棟との比較(イメージ)
2024年度改定で、急性期一般病棟と地域包括ケア病棟の間の位置づけとして、地域包括医療病棟が新設されました。表は、これらの病棟の趣旨や入院料の施設基準の一部について比較したものです。地域包括医療病棟の趣旨は高齢者の急性期を主な対象として受け入れ、早期の在宅復帰を目指すことです。入棟患者の重症度、医療・看護必要度については、地域包括医療病棟では要件が2つ設定されており、一つ目の「A2点以上かつ・・・」の要件は急性期一般病棟入院料4と同じなのですが、もうひとつの要件「入院初日にB3点以上の患者割合が50%以上」があり、B得点はADL関連の点数ですから、ADLに一定程度問題がある患者を半数以上受け入れることが要件になっています。表の下から2段目リハビリのところに「ADLに係る実績要件」と書かれていますが、その内容は、入院時よりも退院時にADLが低下した患者の割合が5%未満であること、というものです。高齢の急性期患者を中心に、B3点以上の患者を50%以上受け入れて、この実績要件を満たしつつ、表の最下段の在宅復帰率80%以上をクリアする、というのはかなり高いハードルと言われています。
想定される地域包括医療病棟への移行イメージ
厚労省作成の資料には、各病院が一部の病棟を地域包括医療病棟に転換する場合として3つのパターンを例示しています。1番目は、急性期一般入院料1、つまり7対1の病棟を複数持っている病院が、そのうちの一部を地域包括医療に転換するパターンです。救急医療の実績が十分であり、既に後期高齢者の緊急入院が多く、急性期医療の中における機能分化が必要であるケース、と書かれています。2番目は、急性期入院料2~6、つまり10対1の病棟を複数持つ病院の場合です。リハビリや栄養のスタッフの確保度合いによっては、すべての病棟、あるいは一部の病棟を転換することが考えられる、との記載です。3番目は、病院全体あるいは一部で地域包括ケア病棟を運営している病院で、救急搬送の受入れが可能な病棟であれば、転換が可能と書かれています。
高齢者救急に多い疾患とは
地域包括医療病棟は、高齢者の救急患者を受け入れることが主な目的とされています。では高齢者の救急に多い疾患とはどのようなものでしょうか。このグラフは令和6年度改定を審議していた中医協の資料にあったデータから作成したものです。データの出典は令和4年1月~12月のDPCデータで、入院初日にDPC算定病床又は地域包括ケア病棟に入院する75歳以上の入院患者について件数の多い医療資源病名上位50のうち救急搬送により入院する割合が25%以上のもの、となっています。令和4年のデータのためコロナウイルス感染症がトップになっていますが、2位以下を見ると、3つ出てくる脳卒中系の疾患は緊急度・重症度が高いですが、それ以外は肺炎、心不全、骨折、尿路感染症などで、軽症や中等症の患者が非常に多いと言われています。
DPCから切り替えると点数的には?
では、急性期病院のDPCの病床が地域包括医療病棟に転換した場合、入院料の収入はどうなるのかについて、比較をしてみましょう。左のグラフは、DPC病院の、患者1人1日あたりの診療収入です。DPC包括部分の平均が29,504円となっています。これは平均値であり、DPCの患者の点数はご存じの通り疾患によって決まっていて、もっと高いケースもあれば、低いケースもあります。これに比べて、地域包括医療病棟入院料はどの患者にも一定で、30,500円です。14日目までは初期加算1,500円が全員に加算されますので32,000円となります。さらに、吹き出しの中にある各種の注加算が施設の状況に応じて上乗せされる可能性があり、平均的には36,000円程度になるのではないかと言われています。入院料に包括される範囲はDPCと地域包括医療病棟入院料ではほとんど同じですので、この金額は同列で比較することができるものです。急性期一般入院料を届け出ているDPCの病棟を複数持っている病院の場合、一部の病棟を地域包括医療病棟に転換し、点数の低いDPCが想定される患者は最初から地域包括医療病棟で受け入れる、という形にすれば、患者単価がアップすることが可能と考えられます。
DPC点数との比較
具体的に、地域包括医療病棟での受け入れが想定される疾患について、DPCの点数と比較してみましょう。まず、地域包括医療病棟入院料は14日目までの初期加算や、施設によって前述の加算がつくので最低32,000円から39,000円の間です。これは疾患によらず一定で、15日目に初期加算がなくなりますが、そこから90日目まで同じ点数で算定できます。いっぽうDPCのほうですが、それぞれの疾患において、手術・処置や副傷病の有無で分類されて何通りも点数があるので、このように幅をもって図にしました。また、どの疾患でも入院期間Ⅰ、Ⅱ、Ⅲが決められていて、点数は順次下がっていきますが、入院期間ⅡというのがそのDPC分類における入院日数の全国平均ですので、ほとんどの患者が入院期間Ⅱまで在院しますので、平均単価は、入院期間Ⅰの金額とⅡの金額の、日数に応じた加重平均になり、このグラフでいうと入院期間Ⅰの金額とⅡの金額の間の金額になると考えられます。高齢者に多い尿路感染症、圧迫骨折、誤嚥性肺炎、心不全(手術なし)などがこういう点数ですので、地域包括医療病棟のほうが病院収入はアップすることがお分かりいただけると思います。
地域包括医療病棟届出状況(令和6年10月1日現在)
2024年度診療報酬改定の経過措置が終了した令和6年10月1日現在の、地域包括医療病棟入院料の届出状況です。都道府県別では、大都市圏の病院が多くなっています。一般病床数別にみると、100~199床の病院が最多で、続いて100床未満の病院が多くなっています。近隣に大規模病院がある比較的小規模の施設が、高齢の救急患者に特化する目的で地域包括医療病棟に転換したことが想像されます。転換前に算定していた入院料については、各病院について令和5年度の病床機能報告にある届出入院料のうち、ICUやハイケア等を除いて一般病床で最も点数が高いものをピックアップしました。実際にどの病棟を転換したかは確認していませんので「推定」としてあります。急性期一般入院料1が43%、次いで急性期一般入院料4が32%となっています。届出施設数がかなり少なく留まっているのは施設基準、とくに在宅復帰率のハードルが高いと受け止められているためと思われます。しかし、地域包括医療病棟の主目的である高齢者の救急医療は、2026年度開始予定の新たな地域医療構想に関する検討会の中でも最大のテーマとなっていますので、今後この転換を誘導する新たな動きが出てくる可能性もあるのではないかと思います。