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糖尿病内科 藤本 卓 先生

碩心館病院に糖尿病内科が開設されて以来、同科の診療を担ってきた藤本卓先生は、血糖管理に加えて尿アルブミン値の管理を重視する方針を掲げています。糖尿病診療の現場において尿中アルブミン定量検査が十分に浸透しているとは言えないなか、糖尿病で同科に通院する患者さん全例にルーチン実施している藤本先生 に、スムーズな検査実施の工夫に加え、検査結果を治療支援にどう生かしているかについてお話しいただきました。

 当院糖尿病内科(以下、当科)の糖尿病診療では、糖尿病性腎症の早期発見・進行抑制の観点から、尿中アルブミン定量検査を3ヵ月に1回ルーチン実施する方針を採っています。日本腎臓学会による『エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2023』でも、糖尿病診療において尿中アルブミン定量検査を定期的に行うことの必要性を指摘しています1)。
   しかし糖尿病診療の現場では、尿中アルブミン定量検査が広く普及し活用される状況には依然、なっていないことが調査結果から示されています(COLUMN)2)。結果を見てみると、血糖管理のための血液検査は標準的に行われているのに対し、尿検査については一般的とは言えず、特に尿中アルブミン定量検査の実施は少数の施設に限られていることがわかります。ただ、尿定性検査の受検率はある程度高かったことから、腎疾患スクリーニング目的の定性検査を定量検査の代用として行っている施設も多いのではないかと考えられます。

     尿中アルブミン定量検査が糖尿病診療の現場に普及しない理由の一つとして、そもそも尿検査を院内でスムーズにルーチン実施できる体制を整えられていないことが挙げられると思います。糖尿病性腎症の早期発見・進行抑制を目的に尿中アルブミン定量検査を行う場合、3ヵ月に1回の頻度で定期的な実施を継続していく必要があります。そのためには、患者さんに尿検査の必要性を理解してもらい、検査実施に協力してもらうことが重要であると思います。すなわち、糖尿病を長期的に管理していくうえで尿検査はオプションの検査ではなく、血液検査とセットでルーチンに実施していく必要があるという意識づけを患者さんに対して行うということです。そのうえで、施設側もそのための検査実施体制を整えることが重要となります。
     当科の場合、尿検査実施日の患者さんが来院したら受付で検尿コップを渡し、診察前に血圧測定、体重測定、採血、検尿を行います。血液検査、尿検査とも院内の迅速検査装置を使用して実施するので、随時血糖値、HbA1c、尿アルブミン値の結果はすぐに得られます。そこで看護師がそれらの検査結果を確認しながら、検査の合間の時間を活用して結果の背景要因となった可能性のある患者さんの生活状況を聴取してくれます。人員体制が十分ではないため、診察前に看護師が治療支援のアドバイスや教育を行う時間を設けることまではできていませんが、診察時には、検査結果と看護師が聴取した情報を合わせて患者さんと話すことができます。それにより、説得力ある検査結果説明を行いながら具体的な治療支援が実施でき、患者さんの動機づけにもつなげやすいと感じています。その際に必要と判断すれば、管理栄養士による食事療法の支援を追加するようにしています。

     他方、尿検査を血液検査とセットでルーチンに行う意識や体制が院内で作れているかどうかに加え、診療報酬上の課題も、尿中アルブミン定量検査普及のハードルとなっているもう一つの要因として挙げられると思います。現状では、糖尿病の診断名がつけられないかぎり尿中アルブミン定量検査の診療報酬が算定されず、保険診療の範囲内で検査を実施できません。実際には、糖尿病予備群の段階でも微量アルブミン尿を呈するケースがあるので、糖尿病性腎症予防の観点からは、糖尿病と診断する前の段階から尿中アルブミン定量検査を実施できることが望ましいと思います。
     当科では、HbA1cや随時血糖値が糖尿病型の基準値を下回っていても、食後血糖値を測定して基準値を上回っていれば軽症糖尿病と診断するなど、できるだけ早期から積極的に尿中アルブミン定量検査による管理を開始するように努めています。

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    検査室や検尿を行うトイレが並ぶ院内 

     血液検査による血糖管理とセットで尿中アルブミン定量検査による尿アルブミン値の管理を行っていくことの臨床的意義については、当科の診療の中でしばしば実感するところです。微量アルブミン尿を認めたため、血糖管理を厳格化して対応していくと、随時血糖値やHbA1cの改善と併せて尿アルブミン値も改善がみられ、糖尿病性腎症の進展を予防できたといった症例の経験は実際、多いです。また、軽症糖尿病の状態で比較的安定して血糖管理できており、尿アルブミン値も微量アルブミン尿の範囲内で安定していた患者さんで、急な尿アルブミン値上昇を認めたため、腎エコーなどで精査した結果、腎硬化症が発見されたといったケースもあります。

     一方で、尿中アルブミン定量検査によって微量アルブミン尿が認められるのは、糖尿病や糖尿病予備群の場合に限らないことが知られています。糖尿病はないものの、高血圧、脂質異常症、肥満、あるいはメタボリックシンドロームといった疾患・病態を持つ患者さんで、微量アルブミン尿が認められることがあります。そうした場合は初期の腎障害をきたしていることが示唆されるため、進行抑制を目指した早期介入が必要になると思います。ただ、前述のとおり、現状ではそうした患者さんに保険診療で尿中アルブミン定量検査を実施することができず、当院でも糖尿病の診断名が付けられないかぎりは、やむを得ず尿定性検査で蛋白尿のチェックをすることで対応しています。
     しかし、微量アルブミン尿の臨床的意義に関するエビデンスは近年、蓄積されてきています。微量アルブミン尿について、心血管疾患の独立したリスク因子であること3)や、認知機能障害リスクとの関連性4)、脳卒中リスクとの関連性5)などが報告 されています。また、前出の『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、慢性腎臓病の診断や重症度判定に蛋白尿もしくはアルブミン尿の評価が必須であると述べています1)。したがって将来的には尿中アルブミン定量検査の保険適用範囲が拡大し、糖尿病以外の腎症リスクを持つ患者さんにも実施できるようになることを期待しています。

     もし今後、そのように変わった場合、糖尿病の外来診療を行っている医療機関であれば、基本的には院内で尿中アルブミン定量検査を実施できる検査体制を整え、糖尿病予備群の段階から3ヵ月ないし6ヵ月に1回の頻度で尿アルブミン値を管理していくことが望まれます。また、一般内科を標榜するプライマリケアを担うクリニックでは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどと診断した患者さんに対し、腎障害を含む合併症を早期発見する役割が期待されると思います。したがって、かかりつけ医として経過を診ていくなかで、やはり3ヵ月ないし6ヵ月に1回の頻度で尿中アルブミン定量検査を行い、尿アルブミン値を管理していくとよいのではと思います。
     さらに、メタボリックシンドロームのリスク因子保有者をスクリーニングする特定健診では、尿定性検査の項目として現在広く用いられている蛋白尿の代わりに、尿中アルブミンをチェックするのも一案ではないかと考えています。特定健診の実施目的の一つに糖尿病性腎症重症化予防があることも考慮すれば、定量検査までは難しいとしても、簡便な試験紙法を活用した尿中アルブミン測定であれば、スクリーニング検査項目とすることは理にかなっていると思います。腎障害だけでなく心血管疾患、認知症といった予後に重大な影響を与える疾患の予防に役立てる観点からも、定量検査、定性検査を目的に応じて使い分けながら、尿中アルブミンを検査項目として活用することが普及していくことを期待しています。

    1) 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2023. 東京医学社, 2023.
    2) Sugiyama T, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2019; 155: 107750.
    3) Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium, et al. Lancet. 2010; 375: 2073-2081.
    4) Georgakis MK, et al. J Am Geriatr Soc. 2017; 65: 1190-1198.
    5)  Lee M, et al. Stroke. 2010; 41: 2625-2631.

    (2024年2月15日取材)

    #腎症早期発見 #DCAバンテージ

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