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鎌田 佳宏 先生
大阪大学大学院医学系研究科生体物理工学講座 教授

全国に約2千万人と言われる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者の予後には、肝線維化の進行度が大きく関与しています。かかりつけ医における肝線維化の検査の普及と、それに基づく専門医へのコンサルテーションの増加、そして当該検査の精度の向上が予後改善の1つの鍵を握るとされるなか、2024年2月に、新しい肝線維化の血清マーカーであるELFスコアが日本で保険収載されました。これによってどのように肝線維化のフォロー体制が変わっていくのか等について、そもそもの予後と肝線維化の関係、現在の検査の実施状況などを含め、肝臓専門医で現在NAFLD/NASH診療ガイドライン委員会の作成委員も務めている鎌田佳宏先生(大阪大学大学院医学系研究科 生体物理工学講座 教授)にお話を伺いました。

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日本肝臓学会と日本消化器病学会は、2023年6月に出された欧米の関連学会の合同声明1)を受け、非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、NAFLD)と非アルコール性脂肪肝炎(以下、NASH)について、それぞれメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合にはmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(以下、MASLD)、metabolic dysfunction-associated steatohepatitis(以下、MASH)と診断することを発表しました。今後、診療ガイドライン等でも名称変更が予定されている一方、本取材時点では日本語名が決定しておらず、NAFLD/NASHのなかに一部MASLD/MASHに該当しないものもあることから、本記事では従来のNAFLD/NASHを用いております。
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 現在日本には、約2千万人の非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、NAFLD)の患者さんがいらっしゃいます。その予後には肝線維化が大きく影響しており、最新のメタ解析によると、NAFLD患者さん全体の肝発がん率が約0.1%である一方、肝線維化が進行した症例や肝硬変の患者さんでは年1.4%に達します2)。また、2023年に国内からも、肝生検NAFLD症例を対象にした多施設共同観察研究の結果が報告され、肝線維化が進行したステージ3、4の患者さんの肝発がん率はそれぞれ、全体の発がん率の約3.4倍、約4.1倍となっていました3)。食道・胃静脈瘤/出血などのリスクも肝線維化の進行とともに高くなるため、NAFLDの患者さんにおいては、肝線維化の進行具合を定期的にチェックし、基準値を超えた段階で早期に専門医に紹介することが重要です。
 また、糖尿病を罹患されている場合はさらに注意が必要で、糖尿病とNAFLDを合併する50歳以上の患者さんを無作為に選び肝生検をした結果、60%が非アルコール性脂肪肝炎(以下、NASH)であり、38%が肝線維化ステージ3以上だったという報告があります4)。これは私が肝臓専門医として診療するなかで得る感覚とも一致しており、糖尿病があるNAFLD患者さんに対しては、肝線維化の定期的なチェックが一層意義を持つと思います。

 NAFLDの患者さんを早期に肝臓専門医へつなぐという点においては、肝線維化の検査方法や紹介基準をかかりつけ医の先生方に知っていただく努力が欠かせません。日本肝臓学会としても、これまで十数年間、学会をあげて啓発に取り組んでおり、2020年には「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020改訂第2版」において、健診等で脂肪肝を指摘され受診した患者さんに対し、かかりつけ医で血清肝線維化バイオマーカーやFIB-4 index等のスコアリングシステムを用いた肝線維化リスクの評価を行い、その結果に応じて消化器科へコンサルテーションするというフローチャート が示されました5。実際、特に取り組みが進んでいる糖尿病分野の先生方からは、FIB-4 indexの結果とともにコンサルテーションくださるケースや、ALT30以下でも様々なリスク因子を考慮して早期にご相談いただいたりするケースが増えており、心強く感じています。
 ただ一方で、当院に肝臓がんで紹介されている患者さんのなかには、十年以上エコー検査がされておらず、紹介時には既に腫瘍が10センチを超えていたというケース、また循環器疾患や透析の治療を受けていたが肝臓については特段フォローされていなかったというケースが、いまだ存在するのは事実です。特に糖尿病以外の領域では、脂肪肝のリスク、およびその評価やモニタリング方法に関する認知について、まだ拡大の余地があると思っております。脂肪肝というのは、メタボリックドミノの上流に位置しており、罹患すると糖尿病、高血圧、脂質異常症といった他の疾患のリスクを高めます。そして結果的に、下流の透析、失明、心血管イベントといったところにつながっていきますので、脂肪肝の時点でできる限り発見し治療することが望まれます。そして脂肪肝が見つかった後も、適切なフォローアップによって、他の疾患の発症や進行を少しでも遅らせることが重要です。

※ 2003年に伊藤裕先生(現慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授)が提唱した臓器連関および病態進展の時間経過を含む臨床概念6。メタボリック症候群の進行とともに様々な生活習慣病がドミノ倒しのように起き、最終的には重大な心・脳血管イベントにつながると示す。

 日本における肝がんのサーベイランスは、欧米に比して進んでいます。背景には、ウイルス性肝炎の感染者が多く、国を挙げて進展予防に取り組んできた歴史があります。B型、C型慢性肝炎の患者さんに対しては3ヶ月~半年に1回の画像検査を行いますし、肝線維化が進展している症例では年に1回または2回、造影剤を使ったCTまたはMRI検査の保険収載が認められます。採血検査の折は肝がんの腫瘍マーカーの検査も行い、画像診断と併せて肝がん発症を早期に捕まえることが日本では一般的です。つまり、日本では、肝がんを防ぐための医療制度や仕組み、意識などの素地が既にある程度存在していると言えます。
 他方、こうしたサーベイランスをどの程度脂肪肝の患者さんに適用していくかは検討の余地があります。といいますのも、ウイルス性肝炎の肝がんの発症率に比すると、脂肪肝からの発症は少なく、1千人に1人程度とされているためです。従いまして、リスクの高い脂肪肝患者さんを適切に絞り込む方法が、医療経済および患者さんの負担の両方の観点から求められています。

 この点において、2024年2月に新たな肝線維化の血清マーカーであるELFスコアが日本で保険収載されたことは、大きな意義があると思います。詳しく申し上げますと、現在、かかりつけ医から肝臓専門医に脂肪肝の方をご紹介いただく際は、FIB-4 indexというスコアリングシステムがよく用いられており、1.3以上が1つの紹介の目安となっています。この背景には、FIB-4 indexが1.3未満であれば肝臓関連のイベントはほぼ起きないという研究報告があることに加え7、FIB-4 indexは肝機能評価のために健康診断等でも測定されるASTとALT、そして年齢および血小板数で計算できるため、かかりつけ医でも使用しやすいこと等があります。しかしFIB-4 indexは高齢者の場合、線維化がなくても高値になりやすいというデメリットを有しており、65歳以上では線維化が進行していなくても半数以上の患者さんが1.3以上となるとされています8。そのため、費用対効果を考えるならば、もう一段階精度の高いスクリーニングを経てから専門医に紹介されることが理想といえます。
 この2段階目で用いる指標として期待されるのが、2024年2月に本邦で保険収載されたELFスコアです。ELFスコアは簡便な血液検査のみで算出可能であり、特に2型糖尿病患者さんにおいては、FIB-4 indexの診断能が0.698に対して、ELFスコアは0.820とより高い診断能を示すという国内の研究報告もあります9。実は世界では、このELFスコアを用いた2ステップでのスクリーニングが主流です。例えば2023年に発表された米国肝臓学会の診療ガイダンスでは、まずFIB-4 indexで評価を行い、2.67を超えると高リスク群と判定します。中間群の1.3~2.67の場合は次段階として、ELFスコアや肝硬度測定によって更なる層別化をし、その結果をもって専門医へ紹介することが推奨されています。肝硬度測定には専用の機器が必要ですが、ELFスコアであれば従来の血液検査と同様に測定できますので、日本のかかりつけ医でも取り入れやすいのではないかと思います。

     ELFスコアは既に保険収載されていますので、今すぐにでも実臨床でご活用いただくことができます。紹介基準の値が具体的に示されるのはおそらくNAFLD/NASH診療ガイドラインの改訂を待たなければいけませんが、 米国肝臓学会のガイダンスや我々の研究に基づけば9.8以上が紹介の目安値になると思います9。糖尿病など、肝線維化のハイリスク患者を多く抱えてらっしゃる先生方におかれましては、肝臓専門医への紹介基準として、FIB-4 index等の従来指標に加えてELFスコアもご活用いただけるとよいかもしれません()。

    1) Rinella ME et al. Hepatology. 2023; 78(6): 1966-1986. 
    2) Thomas JA et al. Eur J Cancer. 2022; 173: 250-262. 
    3) Fujii H et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2023; 21(2): 370-379. 
    4) Castera L et al. Diabetes Care. 2023; 46(7): 1354-1362. 
    5) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020改訂第2版.南江堂. 2020. 
    6) 伊藤裕. 日本臨牀. 2003; 61: 1837-1843. 
    7) Ishiba H et al. J Gastroenterol Hepatol. 2023; 38(6): 896-904. 
    8) Ishiba H et al. J Gastroenterol. 2018; 53(11):1216-1224. 
    9) Arai T et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024; 22(4): 789-797.e8.

    (2024年3月29日取材)

    #脂肪肝予後改善

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