第2回
肝線維化リスクを考慮したNAFLD診療実践のポイント
第1回では、肝臓専門医で現在NAFLD/NASH診療ガイドライン委員会の作成委員も務める鎌田佳宏先生(大阪大学大学院医学系研究科生体物理工学講座教授)から、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予後には肝線維化の進行度が大きく関わっており、かかりつけ医での定期的なチェックが重要であること、またそのうえで有用となる
新たなバイオマーカーが登場したこと等をお話し頂きました。第2回では、こうして見つけた肝線維化のハイリスク患者さんをどのようにかかりつけ医でフォローしていけばよいのかに加え、2023年に日本肝臓学会が地域医療に携わる方々と市民に向けて発信した「奈良宣言2023」について、鎌田先生にお話を伺いました。
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日本肝臓学会と日本消化器病学会は、2023年6月に出された欧米の関連学会の合同声明1)を受け、非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、NAFLD)と非アルコール性脂肪肝炎(以下、NASH)について、それぞれメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合にはmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(以下、MASLD)、metabolic dysfunction-associated steatohepatitis(以下、MASH)と診断することを発表しました。今後、診療ガイドライン等でも名称変更が予定されている一方、本取材時点では日本語名が決定しておらず、NAFLD/NASHのなかに一部MASLD/MASHに該当しないものもあることから、本記事では従来のNAFLD/NASHを用いております。
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FIB-4 indexが1.3以上など
肝線維化を疑う所見があれば
早期に専門医に相談し
リスクに応じたフォロー体制を築く
第1回の最後で、新しい肝線維化の指標であるELFスコアを活用した2ステップ・スクリーニングの可能性をお話ししましたが、まずあらゆるかかりつけ医の先生方に知っておいていただきたいことは、FIB-4 indexが1.3以上といった何らかの線維化進展を疑う所見があれば早期に専門医にご相談くださいということです。そして、ご相談いただいた後は、両者で連携しながら患者さんをフォローしていくことが重要と考えています。具体的には、紹介を受けた肝臓・消化器専門医はまず肝硬度測定検査やエラストグラフィ、あるいは必要に応じて肝生検などを行い、線維化の状態を正確に把握します。そのうえで、引き続き経過観察でよいと判定した方については、紹介元のかかりつけ医の先生にフォローいただき、年に1回はFIB-4 index等の指標を用いて肝線維化の状態を評価いただけるようお願いします。一方、リスクが高いと判定された方については、かかりつけ医の先生にフォローいただきつつ専門医のもとでの精密検査も定期的に入れて頂き、何かあればそれを待たずにご相談いただけるような関係作りが望ましいと考えています。
また、こうした病診連携だけではなく、病院内の連携も、NAFLDを有する方のフォローにあたっては非常に重要と考えています。第1回で循環器疾患や透析の治療を受けている患者さんに進行した肝がんが見つかった例をご紹介しましたが、逆もしかりで、NAFLDは全身疾患ととらえ、我々肝臓専門医も心血管イベントや腎症、他臓器がんのリスクを定期的に評価し、密な連携を心掛けていければと思っています。
肝線維化やNASHの進行を抑えるうえでは
原疾患の治療が有効であり、双方を意識した薬剤選択が重要
糖尿病や高血圧、脂質異常症などで通院中の患者さんが肝線維化のリスクも高いと判定された場合、先述のように専門医と連携体制をとって定期的な検査を行っていく一方で重要なことは、やはり原疾患の治療です。
肝線維化および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対しては、まだ治療薬は普及していません。2024年3月に世界で初めて、脂肪肝に対する治療薬としてレスメチロムが米食品医薬品局(FDA)に認可されましたが、日本ではまだ治験がされていないため使用可能になるにはかなりの時間がかかると思います。そうしたなか、肝線維化の進行を食い止める最も有効な手立ての一つは、「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020改訂第2版」にも示されている通り、肥満であれば食事・運動療法によって7%の体重減少を目指すこと、そして2型糖尿病や脂質異常症、高血圧等の基礎疾患がある場合は、その治療を行うことです2)。
肝臓専門医の視点で少し具体的に申し上げるとすれば、糖尿病については、SGLT2阻害薬、GLP1アゴニスト、およびピオグリタゾンが、線維化抑制または脂肪肝炎の抑制に対する有効性のエビデンスを有しています3-5)。ただ、ピオグリタゾンに関しては半年以上の使用で体重が増加してしまうリスクも多数報告されています。一方で、SGLT2阻害薬とGLP1アゴニストに関しては予後改善のデータが大規模なRCTやシステマティックレビューで次々と示されてきているため4,6)、これらが主な選択肢になっていくだろうと考えています。
他方、高血圧を有するNAFLD患者さんに対してはARB・ACE阻害薬が、高コレステロール血症を有するNAFLD患者さんに対してはスタチンがそれぞれ「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020改訂第2版」で推奨されていますので、ご参考にしていただければと思います。
未受診患者を減らすため
「奈良宣言2023」を軸に市民や健診関係者へも周知
最後に、これまでプライマリケアにおける肝線維化進展例の早期発見とフォローについてお話ししてきましたが、本邦におけるNAFLDの罹患者は現在2千万人近くに及び、肝臓疾患の特性として、自覚症状なく過ごしてらっしゃる方が相当数を占めると考えられるなか、そもそも医療機関を受診していない方々が多くおられることは容易に想像できます。そうした潜在患者さんや、潜在患者を拾い上げる要ともいえる健康診断の現場に対して、肝線維化という指標の啓発を行っていくことも、我々肝臓専門医の重要な役割と考えています。
この点においては、2023年に日本肝臓学会が発表した「奈良宣言2023」が非常に大きな一歩であり、肝機能評価のために一般的な健康診断でよく測定されるALTを用い、「ALT>30でかかりつけ医を受診しましょう」という明確なメッセージが打ち出されました(図1、図2)7)。まだ認知は低いと思いますが、医療関係者のなかだけではなく、市民や健康診断関係者等からも広く目を向けていただけるように努力していければと思っています。ただし、「ALTが30以下であれば大丈夫」というわけではありません。肝線維化が進展していくに従いALTは徐々に低くなってくるため、肝硬変症例ではALTが30以下ということもよくあります8)。かかりつけ医の先生方にはその点を適切にご認識いただき、FIB-4 indexや血小板数と組み合わせて判断いただけるよう注意を促していきたいとも考えています。
1) Rinella ME et al. Hepatology. 2023; 78(6): 1966-1986.
2)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020改訂第2版. 南江堂. 2020.
3) Sanyal AJ et al. N Engl J Med. 2010; 362(18): 1675-1685.
4) Jang H et al. JAMA Intern Med. 2024;184(4): 375-383.
5) Loomba R et al. N Engl J Med. 2024. in press.
6) Takahashi H et al. Hepatol Commun. 2022; 6(1): 120-132.
7)日本肝臓学会. 奈良宣言特設サイト: https://www.jsh.or.jp/medical/nara_sengen/(2024年7月閲覧).
8)川中美和ほか. 肝臓. 2024; 65(4): 186-191.
(2024年3月29日取材)
ケミルミ TIMP-1:30500EZX00037000
ケミルミ ヒアルロン酸:22600AMX00033000
ケミルミ P Ⅲ P:22600AMX00034000