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石井 賢 先生

長年、大学病院で脊椎・脊髄分野の専門診療を牽引されてきた石井賢先生は、2023年12月、東京・永田町に開院したNew Spineクリニック東京の総院長に就任されました。一般的な保険診療のみのクリニックとは異なる経営スタイルを取り入れ、個々の患者さんにとって“最良”の脊椎・脊髄疾患診療と運動器抗加齢治療が行えるクリニックの創設を目指したという石井先生に、その特徴はどういった点にあるのか、背景にはどのような理念やお考えがあるのかについてお聞きしました。

 当院は脊椎・脊髄疾患と運動器抗加齢の治療に特化した、全国的にも珍しいクリニックです。そのため、整形外科診療全般を診療してはいますが、実際には首、背中、腰の脊椎・脊髄疾患の患者さんが多く、お住まいも北海道から沖縄まで全国に及んでおり、海外から来院される方もいます。症状は様々で、軽症から難治性疾患の方まで受診され、予防目的の方もいらっしゃいます。年齢も10~90歳代まで幅広くなっています。
 患者さんが当院を受診する経緯としては、私が大学病院に在籍していた頃のテレビ出演などを見て、ご本人やご家族が私の名前をインターネットで調べていらっしゃることが就任当初は多くありました。開院から半年が経過し、最近では脊椎・脊髄疾患の専門診療を受けられるクリニックを探して当院を知ったという方も増えています。

 患者さんのお住まいや症状、年齢等が多岐にわたるなか、当院が診療方針として大事にしていることの1つは、患者さん全員に満足して帰っていただくということです。そのためには、診察時間を十分にとって、病状はもちろん、生活や仕事、家族構成なども含めて幅広くその人の背景情報を聴取し、患者さんの価値観まで把握したうえで、一人ひとりに最もマッチした“最良”の診療手段を提案する必要があると考えています。したがって、過去30年勤務した大学病院やその関連医療機関における患者さん1人当たりの平均診察時間は5~6分程度でしたが、当院では初診で30分、再診では15分を確保しています。実際には検査と治療を含め、1時間以上を割くこともありますし、遠方から来院した緊急を要する患者さんでは診察後にMRIやCTの検査等をしていただき、当日中に結果をご説明できるように調整することもあります。
 また、“最良”の診療手段という点に関しては、保険診療の枠にとらわれず選択肢を持つ必要があると考えています。例えば、神経麻痺や神経痛に対して当院が独自に行っている点滴療法や、他院ではなかなか診断がつきづらい首下がり症候群1に対するSHAiRリハビリプログラム2は、大学病院での研究成果などから安全性および有効性に関する科学的根拠が示されているものの、最先端であることや費用対効果の問題等から保険適用が難しい治療法です。前者については、実際に痛みが改善して手術を回避できた例が複数あり、後者については既に500人以上の治療実績があることに示されている通り、患者さんのなかにはこうした治療選択肢をご希望とされる方がいらっしゃいます。保険適用がないから提供しないとするのではなく、様々な規定を準拠したうえで提供できる体制を考えていきたいと思っています。

 さらに当院では、運動器抗加齢を重視する観点から、健康寿命延伸を目的に運動器を管理したいという意識の高い方を中心に、最先端の科学的アプローチを取り入れた予防医療プログラムも提供しています(*)。運動器疾患は、実は日本人の介護要因の4分の1近くを占めており、認知症、脳血管疾患を上回っています3。また、歳をとったら腰が悪くなる、膝が痛くなるというのは当たり前のように聞こえますが、加齢に伴う運動器疾患には、高血圧や高脂血症などに伴う血管の老化や糖尿病といった内科疾患の因子が関係するといわれています。超高齢社会へと向かう日本では今後、こうした因子にアプローチして運動器の老化を防ぐ医療の意義が高まってくると考えています。

 このように、一般的な保険診療を中心とした整形外科クリニックではなく、個々の患者さんへの十分な診察時間の確保のもと、そのニーズと価値観に最も近く、かつ有効な治療を提案できるクリニックを作ると決めた根幹には、脊椎・脊髄疾患診療において提唱されている「最小侵襲脊椎治療(以下、MIST)」の考え方があります。MISTとは、患者さんにかかる負担をできる限り少なくしようというもので、「負担」というなかには、切開の大きさや出血の量といった身体的なものだけではなく、精神的なストレスや、治療に要する時間的な制約なども含めて軽減を目指します。ただ、これを実践するには「この患者さんにとって何が負担か」をまずは理解しなければなりませんし、その負担を個々のニーズにあわせて、できる限り最小化しつつ、有効な治療選択肢を提案していくためには、保険診療の枠にとらわれずに診断法や治療法を精査して取り入れていく必要があります。結果として、現在の当院の診療および経営の形を考案するに至りました。なかなか前例がありませんので、日々スタッフたちと議論を重ねながら、より良い診療や経営の形を切り拓くために取り組んでいます。

    1. 首下がり症候群(dropped head syndrome:DHS)は、超高齢社会を背景に増加傾向にあり、頸椎が過度の後弯位(首が垂れ下がる)を呈する症候群。要因は神経原性,筋原性,頸椎症性など様々である。
    2. 井川達也,浦田龍之介,石井賢. 首下がり症候群に対する新たなリハビリテーション(SHAiR)プログラム. 脊椎脊髄ジャーナル. 2023;36(7):521-524.
    3. 厚生労働省. 平成28年国民生活基礎調査

    2016年以降の要介護・要支援状態の原因は認知症が第1位(18%)だが、第4位の骨折・転倒(12.1%)、第5位の関節疾患(10.2%)という2つの運動器疾患をあわせると22.3%となり、第1位の認知症を上回る。

    (2024年5月29日取材)

    #患者さんに選ばれる #Cios Fit


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