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水口 義昭 先生

訪問診療といえば、病状が安定している患者さんを診るケースが多いと思われがちですが、医療法人社団YAYOI やよい在宅クリニックでは、がん末期や神経難病、慢性期の血液疾患や呼吸器疾患といった管理が難しい患者さんのニーズに応えるために診療体制を整え、専門的な治療や処置を積極的に行っています。「過不足ない医療」を提供するという志を在宅医療の現場で形にしてきた当院の取り組みについて、院長の水口義昭先生にお話を伺いました。

 当院は2019年に開業し、おもに基幹病院から患者さんの紹介を受けて訪問診療を行っています。最近では、地域のケアマネジャーからの紹介、患者さんやそのご家族からの直接の依頼を受けるケースも増えてきています。患者さんは、がん末期の方が4割を占めているほか、輸血を必要とする方、在宅酸素療法やレスピレータを必要とする方などが多くおられます。こうした管理が難しい患者さんに寄り添い、「過不足のない医療」の提供、すなわち患者さんごとに最適となる専門的な治療や処置を実行することを基本方針として、日々の訪問診療に取り組んでいます(表)。

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    クリニック内のスタッフルームに飾られている水口先生の肖像画。肖像画は、水口先生が日本医科大学付属病院に勤務していた時代から診療し、現在も在宅訪問している患者さんからの寄贈。

     私が多様な疾患や病状に対する専門的な治療や処置を積極的に実行することにこだわるようになったのは、当院の目前にある日本医科大学付属病院の勤務医であった当時の経験が関係しています。2016年まで肝胆膵外科に勤務していましたが、そのとき、手術後に再発するような難治のがん患者さんに数多く接しました。そして次第に「退院後」により強く意識が向くようになりました。例えば、がん末期の方が人生の最期を迎えるときに、苦痛を感じながら亡くなるのと、苦痛が少しでも和らいで穏やかに亡くなるのでは、本人やご家族にとって雲泥の差があります。しかし、自宅で療養する患者さんが少しでも苦痛なく過ごせるようサポートする医療対応は、まだ日本では発展途上にあると思っています。
     こうしたことから、患者さんがどのような状態であっても受け入れ、一人ひとりにアレンジした最適な治療や処置を行える在宅医療を私自身が提供しようと考え、クリニック開業を決心しました。2019年に開業して以来、志に共感してくれた日本医科大学付属病院からは、がん末期の方をはじめ数多くの患者さんを紹介していただいているほか、非常勤で在宅医療外来も担当させていただくなど、当院の運営にとって柱となる連携関係を築かせてもらっています。

     開業後、基本方針として掲げる「過不足のない医療」の提供を実践するために、設備と人員体制の整備に妥協なく努めてきました。例えば、訪問先の現場での迅速な診断を可能とする小型血液ガス分析装置などを導入し、看護師や医師などのスタッフは数十人を擁する総合病院のような診療体制を整えてきています。在宅医療では、通常の外来主体のクリニックのようなスペースの課題はありませんが、専門的な治療・処置を行える医師などのスタッフを確保できなければ、診療を拡大できません。そのため、当院では大学病院の門前という立地と私の勤務医時代からの人脈を活かし、日本医科大学付属病院から非常勤医師を数多く派遣してもらっています。なかでも、循環器領域や神経内科領域を専門とする医師は連日にわたり多くのニーズがあるため、数多くご協力いただいています。

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     当院の患者さんは、開業当初は日本医科大学付属病院からの紹介が大半でしたが、その後、当院の在宅医療の基本方針を知った他の基幹病院から、多様な疾患・病状を呈する方の紹介が増えていきました。例えば、当院が訪問先の現場で輸血を実施していることを知った、血液疾患診療を特色とする基幹病院からは、血液疾患の患者さんの紹介が多くなりました。また、ある基幹病院からは、いつ呼吸停止しても不思議ではない不安定な状態の入院患者さんを紹介されたことがありますが、どのような状態の患者さんも断らずに受け入れることを当院の役割と捉えて、診療に臨みました。こうした難しい対応を迫られる患者さんの場合でも、引き受けた私たちが何とかするという姿勢で、できる限りの最適な医療を提供し続けてきたことが、地域の各基幹病院からの評価と信頼を高め、継続的な連携とその強化に結びついてきたと感じています。そしてその結果、難しい状態を抱えながらも、苦痛少なく在宅療養生活を送りたいという患者さんの願いが、まさに叶うような地域医療環境を生み出せつつあるのでは、と思っています。

     地域における診診連携を強化することも、当院の役割を果たしていくうえで重要と考えています。具体的にはまず地域の医師会にはできる限り参加するようにしています。最近は参加されない方も増えていると聞きますが、近隣のクリニックとの交流や情報交換はやはり、地域の方々に在宅医療をよりよく知ってもらうことにつながります。また、当院はSNSやブログで、小型血液ガス分析装置など当院が導入した設備や機器について紹介していますが、これは同業者の先生方にも、情報として役立つのではないかと考えてのことです。
     一方、患者さんやご家族に向けても、訪問診療で負担する費用や公費負担に関する情報を当院のウェブサイト上などで発信しており、そのことで当院に問い合わせをくれた患者さんやご家族に対して訪問診療を行うこともあります。今後も、インターネットでの情報発信は積極的に行い、より多くの地域の患者さんに対して、そのニーズや望みに応える在宅医療を提供する方策を模索していきたいと考えています。

      (2023年12月11日取材)

      #患者さんに選ばれる #エポック

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