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宮田 五月 先生 

JR小山駅は、人口約17万人を擁する栃木県第2の都市、小山市の主要駅です。駅東口を出て右手の歩道を線路沿いに約200m歩くと、ベージュのタイル外壁に覆われた平屋の小山ステーション脳神経外科・内科が目の前に現れます。同院を開業した宮田五月先生は、患者数の多い頭痛診療と認知症診療を中心に、MRI検査を収益の柱とする経営戦略を描き、地域に密着したクリニックとして軌道に乗せてきました。その背景で宮田先生が抱いてきた思いや、取り組んできた具体的な実践についてお話を伺いました。

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クリニック外観 

 2021年1月、栃木県南部に位置するJR小山駅から徒歩1分の地に、小山ステーション脳神経外科・内科(以下、当院)を開業しました。自治医科大学付属病院とその関連病院での十数年の勤務医経験を経て、脳神経疾患専門のクリニック開業を志したとき、私がこだわったことの一つが、駅近の立地とすることでした。というのも、脳神経疾患診療は確かに高度に専門的ですが、だからこそ大学病院のような敷居の高さをなくし、気軽に何でも相談できる身近な医療機関として開業し、診療提供することに大きな意味があると思いました。そのために患者さんが立ち寄りやすい場所で、「ここに行けば大丈夫」と思ってもらえるクリニックを目指したいと考えたのです。

 そのうえで、診療の柱に何を据えるかを考えたとき、地域として患者数が多く、専門的な診療に対するニーズも特に高いと予想したのが、頭痛と認知症でした。頭痛は診療アプローチが近年急速に進歩していますが、多くのケースでは専門的加療によって即日痛みが緩和するため、比較的改善が得られやすい症状と言えます。専門的な治療介入をより身近なものとして提供したいという思いもありましたし、来院患者さんにも速やかな痛みの改善に満足して帰ってもらいやすいので、頭痛診療こそクリニックとして手掛ける意義が大きいと考えました。
 また、認知症については、栃木県南部で神経内科を掲げる医療機関が比較的少ないことから、地域の診療ニーズの高さを以前から実感していました。折しも、2021年1月の実際に開業するタイミングで、それまで認知症疾患医療センターの指定を受けていた地域中核病院のご専門の先生が退職されました。結果的に当院が地域の認知症患者さんの受け皿を担う形となり、現在に至っています。
 なお、頭痛と認知症を診療の柱とするのであれば、こだわっていた駅近での開業はいよいよ不可欠の条件だろうと考えていました。認知症患者さんは自動車の運転ができないうえに歩行能力が低下することも多いので、駅近でなかったら来院自体が難しくなると予想されます。また、頭痛患者さんは働き盛りの女性が最も多いですが、10代の方も多いので、駅近にあれば電車通学の中学生、高校生にも学校帰りに受診してもらいやすいだろうと思いました。
 そして候補地を探していたとき、JR小山駅前の一画が発売されることを知り、希望どおりの立地だったので即決で購入、無事開業にこぎつけました。分譲マンションの敷地の一画だったことから、自由にクリニックの看板を出すことができないといった問題はありましたが、軒の部分を活用して控えめな看板にすることで対処しました。集患の観点では、そもそも駅前にあること自体が十分に宣伝効果を発揮していますし、充実したホームページの作成、テレビやラジオといったメディア出演などの手も使いながら、地域への周知を図っています。

 駅近の立地を最大限生かし、頭痛診療と認知症診療を柱に収益性の高いクリニック経営を目指すにあたり、MRI装置が設備投資として不可欠と考えました。脳神経疾患専門のクリニックの設備投資としては、MRI装置やリハビリテーション設備などがありますが、もしリハビリテーション設備を充実させようと考えると、院内の広いスペースに加え、患者さんの頻回の通院に便を図るための駐車場も確保しなければなりません。駅近の立地でその選択は合理的とは思えませんでした。一方、MRI装置に関しては、クリニックでの導入に適したコンパクトさを持ちながらも、質の高い脳神経疾患診療に求められる高画質を実現した装置が選択可能です。導入コストは高額ですが、MRI検査の診療報酬点数は高いため、十分な検査件数を確保できれば、効率的な収益確保が見込めると考えました。そのため、当院ではMRI検査を収益の柱として診療提供を行っていくことに決め、上記の条件を満たすMRI装置を選択し導入することにしました。

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MRI装置の円滑な運用に尽力する同院スタッフと宮田先生 

  ただ、MRI検査を収益の柱に位置付けていく場合、一般的な検査間隔は6ヵ月~1年程度のため、新患患者さんを継続的に確保していくことが必須と考えました。駅近の立地はその点に関しても有利に働いていると思いますが、加えて地域密着で診療提供していく当院のようなクリニックの場合、地域での評判を良くし、口コミで広めてもらって集患につなげることが鍵になると思います。「医師の先生方は診察の場で気軽に何でも相談に乗ってくれる」「看護師さんや医療事務の方も会話の中で痛みやつらさに親身になってくれて、痛みが楽になれば一緒に喜んでくれるので、幸せな空気感で院内が満たされている」――そんなふうに来院患者さんが感じられて、“ニコニコ”と笑顔になってもらえる診療を目指し、医師もスタッフも笑顔とホスピタリティを大切にすることを基本方針として実践してきました。
 そしてこの基本方針は、スタッフの採用や育成にあたっても重視しています。現在、看護師は常勤1人、パート3人、医療事務も常勤1人、パート3人で、業務負担軽減のためそれぞれ増員を予定しています。駅近の立地のおかげで求人への応募自体は比較的多いですが、患者さんに自然と優しい態度で接することができる人柄かどうかが、やはり1つの重要な採用基準になっています。また、入職後のスタッフに対しては、患者さんに笑顔になってもらえる診療を目指すという当院の基本方針を共有するため、診察に立ち会ってもらったりカルテ作成を補助してもらったりする機会を設けています。言葉で説明するよりも、まずは私が実践する姿を見てもらうほうが、当院として心掛けたい患者さんへの姿勢が伝わると考えています。
 開業から約3年が経過した2024年3月現在、1日の外来患者数は60~100人、うち新患は15~20人、MRI検査件数は約20件で推移しており、目標としていた経営指標を達成しながら、目指す医療の提供も概ね実現できつつあるのではないかと思います。

  院長である私以外の医師については現在、非常勤の神経内科医4人に交替で来ていただいています。開業後、患者さんの数が増えるにつれ、神経変性疾患の患者さんに遭遇することが増えてきたことから、私自身の交友関係をたどり、信頼できる人に非常勤で来てもらうようにしました。神経変性疾患の早期診断・治療では、蓄積した経験に基づき特有の勘所を押さえて対応することが必要と感じており、こうした先生方が加わってくださったことで提供できる診療の質が大きく向上しました。脳神経疾患診療が昨今、急速に進歩しているなか、当院は頭痛、認知症のほかに脳卒中予防なども含め、最先端の診療を提供できるクリニックを目指しています。そのために必要な診療体制がようやく整ってきたと感じています。

(2024年3月6日取材)

#患者さんに選ばれる #装置選びの視点


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