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水口 義昭 先生

東京都文京区にある医療法人社団YAYOIやよい在宅クリニックは、「患者さんに過不足のない医療を提供する」という志のもと、がん末期、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、慢性の血液疾患や呼吸器疾患など、多様な疾患や病状の患者さんを数多く受け入れています。一人ひとりのニーズに応えた質の高い在宅医療を実践するために、スタッフの体制を整えることに加え、現場で活用できる設備を充実させることにも注力してきました。その一つが、国内の在宅医療の現場での活用はまだ一般的と言えない小型血液ガス分析装置です。導入コストやランニングコストを回収できるかよりも、まずは現場での臨床ニーズから装置導入を決め、機種を選択したという院長の水口義昭先生に、活用の実際や得られているメリットについて伺いました。

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ハンディタイプの血液ガス分析装置エポック(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社製)を操作する水口先生(左)

 当院の訪問診療の様々なシーンで、多岐に渡る治療や処置を実施するうえで不可欠なツールとして活用しているのが小型血液ガス分析装置です。簡単に持ち運びができ、酸素分圧(pO2)や二酸化炭素分圧(pCO2)などの血液ガス項目、ヘモグロビン関連項目、ラクテートやクレアチニンなどの代謝項目、電解質の項目を一度の検査で把握可能です(表)。現場で的確な診断を行い、患者さんごとに最適な治療や処置を速やかに行うという、当院が目指す医療を実践するために、大いに活躍している装置といえます。
 例えば、当院ではがん末期の患者さんが約4割を占めることもあり、呼吸苦を訴える方が非常に多くいらっしゃいます。そうした方々では血液ガス項目のpO2やpCO2を確認しますし、そもそも肺疾患の方や酸素投与を受けている方では、初診時に必ず動脈血を採取して血液ガス項目を測定しています。在宅酸素療法(以下、HOT)やレスピレータの酸素量を調節するうえでは1日2回測ることもありますし、呼吸器科の医師が定期訪問するときには本装置を必ず持っていきます。
 一方で、呼吸苦以外の場合、例えば血液疾患の方に輸血を実施する際にはヘモグロビン関連項目※1、意識障害を呈する方の場合は血糖値と電解質項目のカルシウムを必須で確認しています。そして、このように多項目が一度にみられる小型血液ガス分析装置を用いることで想定外のリスクも検知しやすく、電解質項目が高かかったがゆえに脱水に気付けたという症例もありました。様々な場面で本装置の有用性を感じています。

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やよい在宅クリニックで導入した血液ガス分析装置で、一度に把握可能な検査項目※2

 とはいえ、開業時の初期設備として小型血液ガス分析装置を購入したわけではなく、導入コストに見合う患者数を見込めるのかも分からなかったことから、当初は血液ガス分析を検査会社に外注していました。しかし、患者さんが増えるとともに、現場で迅速に検査結果を得て速やかに適切な治療や処置を開始できない状況に、もどかしさを感じるシーンも増えていきました。例えば、呼吸苦の方に対して迅速にHOT調整などの対処を行ってあげたいのに、血液ガス分析でpO2やpCO2の結果を待たざるを得ない、といったケースがしばしばありました。
 こうしたことから、開業して1年弱ほど経ったころに小型血液ガス分析装置の導入に踏み切りました。導入を決めたのは、採算の問題をクリアしたからではなく、患者さん一人ひとりに過不足ない医療を提供するという、目指す医療を実践するためには、どうしても必要である、と判断したためです。
 装置選びに当たっては、検査項目の網羅性と結果取得の迅速性を兼ね備えていることを重視しました。前述の通り、私たちが診る患者さんには難しい病状の方や急変を呈する方が多いことから、pO2やpCO2、電解質、ラクテートやクレアチニン、ヘモグロビン濃度※1など多くの項目を即時に測定できることが重要でした。
 実際レスピレータを装着し、HOTが導入されていたALS患者さんで、私たちが本装置を現場で持っていなければ救命できなかった可能性のある方がいました。もともと0.25~2L程度の酸素量でしたが、退院時に体調がすぐれなさそうということで2.5~3Lに調節されていました。そして在宅管理を引き受けた私たちが到着したときには、患者さんの脈が速くなっており、異変を感じたため、持ち運んでいた小型血液ガス分析装置ですぐに検査しました。すると、pCO2が非常に高いことが分かり、HOTを即時に調節しました。装置を持っていなければ、おそらく心肺停止に至っていたのではないかと思います。他にも、装置があったために、急を要する重篤な状態において、その場で適切に対処できたという事例をいくつも経験しています。
 現在、診療報酬としては基本的に実施の都度、血液ガス分析とクレアチニン等の検査料、および検体採取料を算定しており、審査機関が過剰と判断すれば査定されることもあります。しかし、もし経営的にマイナスになったとしても目の前にいる患者さんが苦しんでいる原因が分かるのなら、使わない理由はないと考えています。

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青いショルダーバッグに入った血液ガス分析装置。コンパクトで女性の看護師でも持ち運びが容易。

 より良い在宅医療の提供を目指すうえで、診療報酬上の課題にはしばしば直面します。例えば超音波検査の検査料は原則月1回の算定ですし、血液ガス分析についてもまだ在宅医療での活用はそれほど進んでいないからか、前述のように査定対象になることもあります。私たちにとっては、これらの検査は日常的に行うことが重要であり有用ですが、多くの開業医の先生方にとっては、こうした診療報酬上の制約が装置の導入や活用を考えるうえでハードルになると思います。
 また、定期訪問の算定が1日1回のみとされていることや、同じ法人グループの訪問診療機関と訪問看護ステーションが同日に訪問した場合、片方の訪問しか算定されないことも、在宅医療にとっての診療報酬上の課題と考えています。患者さんのニーズに十分に応えていくためには、こうしたハードルに対してチャレンジしていく必要があると考えています。
 ただ一方で、最も大切なことは患者さん一人ひとりのニーズに応える医療に真摯に取り組むことだと思います。私は、「ど真ん中をいく」とよく言っていますが、目指す医療を実現するために必要と考える設備投資を行い、スタッフ体制も整えていくことで、患者さんに最適な治療や処置を現在以上に提供することが可能となり、ひいてはクリニックの収益確保につながっていくという確信があります。当院の目指す医療の先には、将来的にはホスピス設立や分院化の計画も視野に入ってきており、経営面の成果もおのずと達成されてくるだろうと考えています。

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訪問診療に向かう水口先生。小型血液ガス分析装置が入った青いショルダーバッグを携行。

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血液ガス分析装置の院内保管場所。充電や試薬の確認は、その日に同行する看護師が行います。

(2023年12月11日取材)

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