コラム「コンサルティングの現場から」
第1回 クリニックにおける生産性向上とは
大西 大輔
MICTコンサルティング株式会社 代表取締役
2001 年一橋大学大学院MBA コース卒業。同年、日本経営入社。2002 年に医療IT製品の常設総合展示場「メディプラザ」を立上げ、IT導入コンサルティング、システム選定アドバイス、研修事業等を担当。2016 年にMICT コンサルティング株式会社を設立。多くの医療機関の導入サポートや取材経験により医師会などの公的団体などでの講演や執筆多数。
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生産性向上に取り組む背景
近年、病院だけでなくクリニックにおいても生産性向上の取り組みが増えてきました。例えば、Web予約システムやWeb問診システム、自動精算機、音声入力システム、検査管理システム、画像診断AIなどを導入し、デジタルツールによって業務変革を行い、業務効率化を図るクリニックが出てきています。
その背景として、少子高齢化と急速に進むデジタル化への対応が挙げられます。少子高齢化が進んだことで生産年齢人口(15~64歳)が減少しており、働き手が不足しています。クリニックにおいても採用難に陥るケースが多く、少ない人員でクリニックを運営していくことが重要となっているなか、デジタルツールを活用して業務改善を進め、生産性を高めようとしているのです。このデジタルツールを活用した改善が、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれ、政府*によって推奨されています。
生産性向上は
売上を増やすかコストを下げるか
生産性とは、アウトプット(売上)をインプット(費用)で割った値で表され、その値が高いほど生産性が高いことになります。生産性を高めるためには、売上を増やすか、コストを下げるかの大きく2つの方法が考えられます。
売上を増やすためには
患者さんのリピート率にも着目を
クリニックの売上は、患者数に患者単価を乗じることで算出されます。まず、この単価を増やすうえでは、保険診療だけでなく、健康診断や美容系サービス、物販などの自費分野も考える必要があります。保険診療の報酬はここ二十年、医療費抑制のため、改定率はマイナスか、良くて現状維持の状態が続いています。そのため、保険診療の収入増ではなく、自費分野の比率を高めることで売上増加をはかるクリニックが現れています。例えば、健康診断や人間ドックの枠を増やしたり、美容注射や点滴を始めたり、サプリや化粧品の販売に力を入れたりすることなどです。
次に患者数についても、新規の患者の獲得にのみ注力する従来の集患の考え方だけではなく、既存の患者の再来率の向上といったリピートの考え方が必要となっています。新型コロナウイルス感染症が2類相当から5類に引き下げられ、患者数は徐々に減少に向かっていくことが予想されるなか、クリニック数は継続して増えており*、競争も激化している現状では、大幅な新規の患者増はなかなか期待できません。そこで、注目すべきはリピート患者数です。リピートを生み出すためには、ホームページだけではなくSNS(ソーシャルネットワークシステム)などを活用した、既存患者に対する働きかけ(コミュニケーション)が大切になっています。
また、ネットの口コミが集患に影響するケースが増えてきていることから、口コミ対策も重要になっています。現在、患者からの口コミは待ち時間や接遇などに関するものが多いことから、Web予約システムを導入して待ち時間対策を行ったり、スタッフのレベルアップのために、接遇研修を実施したりしているクリニックもあります。
コストを下げるためには
デジタルツールを活用した業務効率化を
一方、クリニックを経営するうえでのコストには、人件費、医薬品・材料費、委託費、システム・設備費、家賃、水光熱費などがあり、そのなかでも人件費が5~6割を占めています。そのため、この人件費を下げることが、最も手っ取り早くコスト削減につながる方法と考えられています。そこで、クリニックでも業務効率化の検討が進められるようになってきました(図参照)。
また、業務効率化が策となってきた背景には、2019年から始まった働き方改革も大きく影響しています。社会全体が残業を良しとせずに、できるだけ短時間で成果が出るような仕組み作りを求めるようになるなか、デジタルツールの活用、医師の負担軽減としてのタスクシフティングなどが取り組まれています。